NAKAHARA-LAB.net

2014.5.23 08:51/ Jun

仮説は「命題」か「見通し」か?

 僕のような研究領域ですと、必然的に研究者は「仕事の現場」と「研究の現場」を行き来しながら、仕事をすることになります。
 ヒアリングや調査などを通して、仕事の現場におられる方々に話を聴かせていただく一方で、研究室に籠もり、あーでもない、こーでもないと分析を繰り返す。
 最近は、アドミニストレーションの仕事が増えておりますが、まぁ、日々、そんな生活を過ごしています。
 ところで、仕事の現場の方々から、話を伺っていると、ときに、ハッとすることがあります。
 ある用語が、研究の現場で用いられる用語と、少し異なる意味において、利用されているとき、一瞬、翻訳に時間がかかるのです。
 たとえば、「仮説」という言葉もそのひとつです。
 研究の現場では「仮説」とは、いろいろな定義があるのでしょうけれど、「ある現象を説明しうる命題で、真偽の判定を行いうるもの」という意味において使われます。
 ワンワードでいえば、仮説とは「YesかNoか」のジャッジが行える命題です。
 しかし、一方、仕事の現場においては、「仮説」は、これまたいろいろな用法があるのでしょうけれど、もう少し緩やかにとらえられています。
 たとえば、「僕は、ほにゃららな仮説をもって、あの事業にあたっているのですよ」という言葉の場合、それが指し示している内容は「ビジョン」や「見通し」に近いものであったりすることがあります。
 もちろん、場所によっては、研究の現場と同じ用法で「仮説」という言葉を使っているところもあります。ただ、総じて見ると、「仮説」とは「方向性」「ビジョン」「見通し」に近いものとして用いられます。
 ちなみに、そうした用法が間違っている、と断じて言いたいわけではありません。
 そうではなく、言葉ひとつでも、それがどのような意味において利用されているかについて、常にアンテナを立てていなければ、その方の、その文化圏は理解できない、ということが言いたいのです。
 たかが「仮説」という言葉ひとつのことですが、「仕事の現場」と「研究の現場」を行き来しながら、研究をするとは、そういうことです。
 それは用語や用法の異なる、2つの世界を越境しながら、知の生産に関わる、ということであり、その際に求められるのは、「フィールドワーカー」的な態度です。
 でも、面白いものです。
「世界は1つ」なのに、この世には、様々な「島宇宙的・文化圏」が存在する。今日はどんな言葉の用法に出会えるか。またまた1日を過ごすのが楽しみです。
 そして人生は続く
 

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2025.9.26 18:14/ Jun

立教大学中原ゼミの学生たちが開発した「ワークショップ」が、220社の内定者教育・新人教育として導入されています(感謝感激!):8期生・新プロジェクト・キックオフ会を開催しました!

「最近の学生」や「新入社員」を「十把一絡げ」にする「便利な言葉」が嫌いなのである!?

2025.8.31 08:12/ Jun

「最近の学生」や「新入社員」を「十把一絡げ」にする「便利な言葉」が嫌いなのである!?

2025.8.26 20:52/ Jun

【無料イベント参加者募集中】アンコンシャスバイアス研究の最前線!:アンコンシャスバイアスとうまく付き合う方法をさぐる!?

【イベント参加者募集中】若手社員と学生の本音から考える「新卒オンボーディング」

2025.8.25 18:16/ Jun

【イベント参加者募集中】若手社員と学生の本音から考える「新卒オンボーディング」

大学教育の改善は「データ」だけでは進まない!? : 高等教育機関のIRについて思うこと!?

2025.8.14 21:25/ Jun

大学教育の改善は「データ」だけでは進まない!? : 高等教育機関のIRについて思うこと!?