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2008.3.19 06:45/ Jun

やり過ごし、議論せず、バカになる

 組織の中で有能に振る舞うためには、「やり過ごすこと」と「議論しないこと」と「バカになること」を覚えなければならない。
 まず、「やり過ごし」。
 いつぞやのベストセラーではないが、「他人は思いつきでモノを言う」。他者の言葉を傾聴することは重要なことではあるが、すべての言葉に敏感になる必要はない。
 時には、正面から真に受けず、スラリと上体をそらして「やり過ごす」。実は、世の中というのは、「やり過ごして」いれば、忘れ去られること、何もしなくてもいいことが、結構多い。
 ホッておけば、何もしなくてもいいのに、真正面に受けたばっかりに「貧乏くじ」を引いてしまうことの、なんと多いことか。
 真正面から受ければ、相手も身構える。いったん身構えれば、あとには引けない。まずは、適当にやり過ごせばいいのである。本当に大切なことは、上体を反らしても、いつかは振ってくる。
「へぇーそうなんですか・・・ふーん・・・ところで、そろそろメシ行きませんか」
 —
 次に「議論しない」。
 我々は一般に「うられたケンカは買わなければならない」という規範をもっている。しかし、これは規範でしかない。
 すべての議論がまともだとは限らない。やっても意味のない議論、やるに値しない議論は確かに存在する。そうした場合には、「議論をふっかけられても、”オレは議論しない”という選択肢をとるべき」である。
 あまり生産的だとは思えない論点であっても、いったん議論の俎上にのせてしまえば、あなたも相手も、なかなか引くことはできない。それは時間の無駄だ。
 熱意をもって真摯に議論すれば、いつかは誰とでも「分かり合える」と思ってはいけない。対話を行えば、みんながハッピーな結論をいつも導けると思ってはいけない。
「その問題は、議論しません」
 —
 最後に「バカになること」
「僕、できませーん、だってバカですから」という「フリ」をして「実りがなさそうなことには関与しない」ということである。プライドのある人ほど「バカにはなれない」。バカになれば、やり過ごせることであっても、バカになれないばっかりに真正面から受けてしまう。
 ちなみに、ここで「僕、できませーん、だって忙しいですから」とは絶対に言ってはいけない。
 社会人の間では、「急ぎの仕事は、最も忙しい人に頼む」というのが鉄則である。「忙しい人は、限られた時間の中で、かならずアウトプットを出さざるをえないため、仕事が早いから」である。
 「僕、忙しいからできません」という言い方は、「僕、実は、あなたの仕事をキチンと時間通りに仕上げることできるんですけどね」と言っているのと同じことである。
「すみませんねー、仕事できなくて、バカチンで」
 —
 もちろん、すべての局面で「やり過ごせ」「議論するな」「バカになれ」と言っているわけでは断じてない。
 組織には、常に「誰から見ても意義のわからない生産的ではないこと」がある。そして、人間がもっているリソースは有限、そして時間も有限である。
 だから、あまり実のないことにはリソースを割かず、「フリ」をすることが重要だ。その上で、本業に一点突破するべきだ、ということである。決して、「全力であたるな」と言っているわけではない。
 有能な人は、時に、やり過ごし、議論せず、バカになる。逆説的ではあるけれど、これは真実であるように、僕には思える。

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