NAKAHARA-LAB.net

2013.3.18 09:34/ Jun

落語家はどのようにして熟達するのか?:柳家花緑著「落語家はなぜ噺を忘れないのか」(角川新書)

 柳家花緑著「落語家はなぜ噺を忘れないのか」(角川新書)を読みました。

 本書は、落語家の柳屋花緑さんが、1)落語家としてどのように仕事をなさっているのか、2)噺をどのように暗記・整理・練習なさっているのか、また全体としては、3)落語家はどのように熟達してきたのか、について論じている本です。
 僕の言葉でいうならば、「落語家の熟達論」「落語家の学習論」としても解釈可能なのではないでしょうか。非常に興味深く読むことができました。
 花緑さんご自身が後書きで述べられているように、この本は、いわゆる「野暮な本」です。これまで敢えて語られることのなかった、落語家の仕事の手の内を明かしているからです。それは多くの落語が、「粋」を語るのとは対局にある世界でしょう。非常に面白いですね。
 ▼
 本書を通して、僕が、学んだことはたくさんあるのですが、もっとも印象深かったのは、落語家の熟達、ないしは、自己スタイルの確立も、師匠や兄さん、様々な人間関係によって、少なくない部分が決定されているということです。
 まずはひたすらネタを憶え、完全コピーする段階がありつつ、師匠に稽古をつけてもらう。
 その上で、様々な人々から内省を促され、少しずつ、自分のスタイルを確立していきます。師匠とは違う自分の世界観を確立していくことが求められます。
「完全なる自律」でもなく、はたまた「完全なる他律」でもない世界がそこにはあります。
  ▼
 人材育成の領域でご活躍の方々、講師やファシリテータをなさっている方、ないしは、現場で教鞭をとっておられる先生など、落語を趣味になさっていたり、そこからインスピレーションを受けられる方は、少なくないと思います。皆さんの話題に、よく落語は出てきますので。
 この本は、そうした方々にもおすすめです。
 そして人生は続く

ブログ一覧に戻る

最新の記事

大学教育の改善は「データ」だけでは進まない!? : 高等教育機関のIRについて思うこと!?

2025.8.14 21:25/ Jun

大学教育の改善は「データ」だけでは進まない!? : 高等教育機関のIRについて思うこと!?

2025.8.7 19:10/ Jun

ポジティブフィードバックも、ネガティブフィードバックも学べる決定版!「増補改訂版 フィードバック入門」本日発売です!

2025.8.4 11:00/ Jun

新刊「学びをやめない生き方入門」どうぞご高覧くださいませ!

2025.7.19 11:28/ Jun

生成AIを用いて「リフレクションの質」を「爆上げ」する方法とは何か!? 

エンゲージメントサーベイの数字を「こねくり回す」だけでは「組織課題」は見えてこない!?

2025.7.18 18:23/ Jun

エンゲージメントサーベイの数字を「こねくり回す」だけでは「組織課題」は見えてこない!?