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2007.4.2 02:30/ Jun

NHKスペシャル「激流中国」:広がる経済格差

 中国に広がる経済格差の問題を描いた、NHKスペシャル「激流中国」を見た。
激流中国
http://www.nhk.or.jp/special/onair/070401.html
 改革開放の流れにのり、巨万の富を一代で築いた「富人」と、一日数百円の日雇い労働さえままならない「農民工」を対照的に描いている。見ていて、だんだんと辛くなってきた。
 —
 富めるものは、さらに富む。
 親から引き継いだ経済資本、文化資本、社会関係資本をもとでに、インサイダー情報をつぎつぎと手に入れ、確実に経済価値があがる資産を次々と購入する。農民工の700年分の年収を、一瞬のうちに蕩尽する。
「先に富むものから、富むべきである」
 富めるものは、いつの時代も饒舌だ。鄧小平の唱えた「先富論」が彼らのバイブル。
 —
 一方、貧しきものに、言葉はない。
 実の母親が高血圧で倒れそうになっても病院には行かせることもできない。靴底が割れて、冷たい凍土に足がしもやけになったとしても、子どもに150円の靴さえ買い与えることはできない。
 ある家族は、一人の娘を学校に行かせる学費をかせぐため、家族が離散して出稼ぎを余儀なくされている。しかし、その学費さえ、次の支払いのめどは立たない。
 娘は言う。
 勉強でしか運命を変えられません。学校だけが頼りなのです。
 同じような境遇にある、農民工の子どもはいう。
 自分は科学者になって、パパとママを楽な生活をさせてあげたい。
 
 農民工の子どもたちが夢見ているのは「立身出世」、近代の大きな物語である。
 —
 しかし、ここにアイロニーがある。中国の高等教育は、爆発的な拡大を見せている。
 うろおぼえの数字なので、正確ではないけれど、確か1990年から2000年で、高等教育進学率は4倍近くになったはずだ。まさに「学歴バブル」である。
 学歴インフレーションは、常に、学歴の経済価値の低下を意味する。事実、中国では近年大学生の就職難が大変問題になっていると聞く。
 
 つまり、「大学に入ったけれど」の世界が出現しようとしている。
 農民工の子どもたちが、たとえ大学に入ったとしても、その後、パパやママを楽にさせてあげられるかどうかは、わからない。「立身出世」の夢は、「うたかた」のようなものである。
 —
 セオリーどおりに考えれば、「先富」という言葉が成り立つならば、いつの日か「後富」があるはずである。
 しかし、凡庸な僕の知性では、「後富が本当に実現しうるものなのか」に関して、いかなる想像力も働かなかった。むしろ、「後富は未来永劫あり得ないのではないか」、とさえ思った。絶望的な思いを脳裏から消し去るのに、長い時間がかかったことを、正直に告白せざるを得ない。
 蓋し、中国は、これから「格差」によってもたらされる数々の不利益に翻弄されることになるだろう。富めるものと、貧しいものの格差は、長期的な視野にたてば、国全体で背負うべき「社会的コスト」になる。
 中国の抱える最大の問題のひとつが、ここにあるように思う。

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