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2006.8.7 16:27/ Jun

ピアジェの新しい表情

 ピアジェについて読書会で議論した。
 1年に1回、基礎的文献を読む非常に貴重な機会である。

 思い起こせば、学生時代、僕はピアジェを「過去の人」として教わった。
「子どもの自己中心性」の主張や、「ピアジェの行った保存課題に異を唱える実験」が授業で紹介され、ピアジェを乗り超える理論家としてヴィゴツキーが紹介された。
 教育の世界では、「個人から社会文化へ」の掛け声が日増しに強くなっていた頃であった。ちょうど「ふり子」のように知的潮流が変わろうとしていた。
 しかし、今になって考えれば、どうも、この「ふり子」は、少し的外れに揺れていたのではないかと思う。
 ピアジェが提示した発生的認識論 – 生物学をメタファとした心の描写は、一部の反証実験で完全に否定されるような思想ではなかった(あえて思想とよぶ)。むしろ、ピアジェ的な理論とヴィゴツキー的な理論は、学習や発達というものを違った角度から描写しようとした相互補完的な理論としてとらえることが可能ではないかと思う。それらは、理論の背後にある理論も、分析単位も異なっていた。
 

 理論的言説の中に「ふり子」を感じたら、気をつけなければならないと思った。「ふり子的思考」は理解しやすい。しかし、事態を見誤らせる可能性を常に抱えている。

 今の僕が見ているピアジェは、学生時代に見ていたそれではない。
 今年も新しい表情を発見できてよかった。

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