NAKAHARA-LAB.net

2007.12.5 09:07/ Jun

学習者中心主義!?

 学部時代の指導教員だった佐伯先生からのご依頼で、辞書の項目のひとつを執筆している。僕が担当するのは、「学習者中心主義(Learner-Centered)」。
 しかし、これがなかなか苦労する。つーか、もう締め切りはとうに終わっているんだけど、まだ片付けることができないでいる。
 というのは、学習者中心主義とは、いろんな価値や考え方を含む考え方であり、学会として「定訳」がないからである(言い訳)。
 少なくとも僕が知っているLearner-Centeredには、3つくらいの意味があるように思う。
 —
 まずひとつめの意味は、Communications of ACMでの「学習者中心の教育特集」での定義。
 この定義において、Soloway & Pryor(1996)らは、コンピュータと人間の関係(human-computer interaction)を下記の3つに分類している。
1.技術中心主義(technology-centered)
2.ユーザ中心主義(user-centered)
3.学習者中心主義(learner-centered)
 彼らによると、これからのコンピュータと人間の関係に求められるのは、人間が技術の進展の恩恵を一方向的に享受する「技術中心主義」でもなければ、技術を使いこなすことを要求する「ユーザ中心主義」でもない。
 これからのコンピュータと人間のあり方は、「学習者が相互に学びあうことを媒介するあり方」に変わるべきだとしている。これが「学習者中心主義」ということになる。
 —
 もうひとつの定義は、いわゆる「子ども中心主義(Child-Centeredness)」にスカーダマリア&ベライターの「知識構築(Knowledge building)」をかけたような定義である。佐伯先生の「新・コンピュータと教育」に書いてあった定義も、ほぼこれに同じである。
 この定義においては、学習者中心主義は、「知識は人から与えられるのではなくて、学習者自らが作り上げるものなのだ」といったような教育価値として理解される。
 —
 最後の定義は、認知心理学風というのか、学習科学的というのか – この定義によれば学習者中心主義とは「学習者がすでにもっている知識や技能を十分把握しつつ、学習環境を組み立てなければならないよ」というデザイン原則として理解される(Bransford, Brown and Cocking 2000)。
 —
 うーん、悩ましい。
 辞書なんだから、素直に、こんな風にいろんな定義がありますよ、と書けばいいんだろうか。ともかく、今日には原稿をあげなくては。

ブログ一覧に戻る

最新の記事

 あなたの組織には「DE&I(多様性・公正・インクルージョン)」を阻む「3つの壁」が存在していませんか?

2024.5.17 08:34/ Jun

 あなたの組織には「DE&I(多様性・公正・インクルージョン)」を阻む「3つの壁」が存在していませんか?

高齢化による人材開発・組織開発のスキルの「世代継承問題」!?

2024.5.13 08:20/ Jun

高齢化による人材開発・組織開発のスキルの「世代継承問題」!?

2024.5.10 11:01/ Jun

新刊「リーダーシップシフト」完成しました!:全員参加型チームをいかにつくるのか?:もうマネジャーは、ひとりで抱え込まなくていい!

あなたの組織には「社員の主体性」をねこそぎ刈り取る3つの要因がありませんか?

2024.5.10 08:32/ Jun

あなたの組織には「社員の主体性」をねこそぎ刈り取る3つの要因がありませんか?

同じようなビルと、同じようなテナントが、果てしなく続くユートピア!?

2024.5.7 08:35/ Jun

同じようなビルと、同じようなテナントが、果てしなく続くユートピア!?