NAKAHARA-LAB.net

2014.7.10 09:23/ Jun

断片化する大学人の「時間」と「思考」:コッパミジンコのチリチリバラバラで、もう粉!

 ここ数ヶ月のうちに、自分の授業をMOOCで公開するために大変な準備をなさっている、世界的に非常に著名な社会科学系の先生で、僕が最も尊敬できる研究者のひとりである先生が、ある会合で、こんなことをおっしゃっていました。
 個人的に非常に印象深い言葉でしたので、ここでもご紹介させていただきます。
 
「今回、自分の授業のMOOCの撮影をしてみて、最も考えさせられたのは、わたしたち”大学人の時間感覚”や”大学人の思考”が、この先、相当変わってくるのではないか、ということです。それを今回の経験から、深く感じた。
わたしたち大学人は、90分ないしは100分の授業時間で、ひとまとまりの話をすること、ものを考えることには大変慣れている。大学はまさにこれまでそうした場所であった。
しかし、MOOCでは、ひとつのコンテンツが10分にしなければならない。そうでなければ、グローバルに流通するコンテンツにはならない。
一週間のコンテンツ数は10分ビデオが×9本で構成され、合計90分だから、今までと同じではないか、とおっしゃるかもしれない。
しかし、ひとまとまりで90分あるのと、細切れに10分が9つあるのでは、その時間感覚は全く異なっている。時間とは思考である。おそらく、大学人の思考も相当に変わってくるのではないか、と予感し、それが最も印象深かったことだった」
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 ICレコーダーを持っていたわけではないので、一字一句同じではないですが、先生がおっしゃっていた趣旨は、おおよそ、こんなことであったと思います。
 大学史(大学の歴史的発展を論じる分野)の入門書をひとつひもとけば、すぐにわかるように、他の組織・制度とともに、大学は「常に変化」にさらされてきました。
「大学が揺らがなかった時代は存在しない」
 とも言っていいくらい、それは時代の波を受け、常に変化をしてきました。
 わたしたちは、ともすれば、ある時代の制度や組織のあり方を「固有=昔からそのままの姿であったもの」のものとして位置づけたくなりますが、それは社会科学を一度でも学んだことのある方ならおわかりであるように、異なっています。万物は歴史的に構築され、そして変化している。
 おそらく、上記で先生がおっしゃりたかったことは、グーテンベルグの活版印刷の発明が大学の知の流通に変化を与えたように(ここまで書けば、その先生が誰かわかってしまいますね)、「大学もメディアの発展とともに変わってくること」、そして、そこに集う人々の感覚、「大学人の時間感覚」や「大学人の思考」すらも、これから相当に変わってくるのではないか、ということであると解釈しました。非常に印象深いことです。
 時間のフラグメンテーションといえば、僕の分野ですと、ヘンリーミンツバーグのマネジャー研究が思い出されます。ミンツバーグは、マネジャーはビジョンを描くことが重要であるのにもかかわらず、その時間が「目まぐるしく断片化」していることを参与観察をもってつきとめました。
 ひるがえって、大学人の「時間感覚」や「思考」が、フラグメンテーション(断片化)することがよいことか、どうかは、皆さんの判断に任せます。最近は授業だけでなく、アドミニストレーションのあり方も、相当にかわってきている。
 しかし、わたしたちは、そうした変化に危惧を感じつつも、一方で、それに抗しながら、時に順応しながら、戦略的に自らをたて、生きていかなければならない。僕の時間なんて、コッパミジンコのチリチリバラバラで、もう「断片」というよりは「粉」になっている(号泣)。まぁ、それは現代社会を生きる人なら、多かれ少なかれ、多くの職業でもいえることなのかもしれないけれど。
 90分の授業を、10分刻みで9つやることで、「大学人の時間と思考」まで思索が進むとは、さすが世界的レベルの研究者は違います。僕も深く考えさせられました。
 そして人生は続く
 僕は、下を向かない。

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