NAKAHARA-LAB.net

2007.1.6 08:58/ Jun

失うものなんて何もない!:梅田望夫著「シリコンバレー精神」

 ベンチャーキャピタリストを含めた様々な人々からお金を募り、自分のアイデアをビジネスにする。
 自分は決してリスクを負わない。あとは、「人生のギア」をトップにいれるだけ。御者を失った馬車馬のように働き続ける。
 アイデアが「かたち」になり、ビジネスが順調に軌道にのったら、そろそろ「Exit strategy」を考える。
 大企業に自社株を買収するもよし、株式公開(IPO)するもよし。いずれにしても、創業者には何十億、何百億ものマネーが転がり込む。
 嗚呼、あの頃はよく働いた。Early retirementをなしとげ、残りの人生30年は、ロス郊外の海の見える豪邸でおくる。
 たとえ万が一失敗しても、ベンチャーは投資によって成り立っている。自分に借金は残らない。今の会社を処分し、次のアイデアを温めるだけ。
 これが、シリコンバレー流。Nothing to lose!、チャレンジして失うものなんて、何もない。
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 梅田望夫著「シリコンバレー精神」を読んだ。梅田氏は、昨年ベストセラー「ウェブ進化論」を上梓したシリコンバレー在住のコンサルタント。
 
 本書「シリコンバレー精神」は、彼が「ウェブ進化論」を出版する前に、シリコンバレーの生活、ネットバブルの現状、マイクロソフトとリナクスの攻防について論じたエッセイ集。
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 冒頭は、時に莫大なキャピタルゲインを生み出す、シリコンバレー流の起業の仕組みである。
 比喩的にいうならば、シリコンバレーの若者は、生まれながらにしてチャレンジ精神が旺盛なのではない。
 「チャレンジすることに、それほどリスクがともなわない仕組み」が、システムとして完成し、社会から認められているから、何の憂いもなく、チャレンジが可能なのである。一言でいうと、チャレンジした方が、チャレンジしないよりも得だから、である。
 こういう大胆なシステムを整備できるところに、アメリカという国のしたたかさ、と魅力があるのだと思う。日本を含め、他の国では、なかなかこの仕組みを整えることは難しい。
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 本論とはズレるけれど、個人的には、下記の記述がとても気になった。梅田氏がコンサルタントとして起業し、忙しくなり始めた頃のことを綴った文章である。
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 独立して忙しくなりはじめた頃、新たに引き受けた仕事をどうやってこなすのが正しいか。私は躊躇することなく、「週末をいくつかつぶしてでも自分をやってしまう」というやり方を選んでしまった。
 自分でやれば、経費はあまりかからず、売り上げのほとんどが手元に残るという「小金の誘惑」に勝てなかったのだ。しかし、そんなことは長続きしなかった。身体が悲鳴を上げ始めたのだ。
(これがきっかけで)「単なる独立と起業の違い」について、何か身体でわかったような気がしたのだ。
 自分一人の能力でこなし得る仕事量を上限に仕事を断ってしまうのが「単なる独立」である。一方、そこに需要があるのだから、しっかりとした供給体制を整備し、成長できる構造を創ろうとするのが起業である。
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 「目先の金にこだわって働きすぎるな」
 「独立ではなく事業をおこせ」
 このことは、シリコンバレーのコンサルタントだけでなく、独立系専門職ならば、すべてに当てはまることだと思った。
 

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