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2008.7.23 09:45/ Jun

処女作と最高傑作

 大学院ゼミ。
 今日は、社会分散認知研究の先駆けとなったエドウィン=ハッチンスの論文「How a cockpit remembers its speed」と、熟達化研究で現在ブレークしているアンダース=エリクソンの過去の論文「The role of deliberate practice in acquisition of expert performance」を購読した。
 どちらも執拗に、執拗に、実験や観察を繰り返した論文である。実験計画の立て方など、とても参考になった。
 ところで、本論とはややズレるけど、エリクソンの論文の中に引用されていたRaskin(1936)の研究がとても印象的だった。
 Raskin(1936)は、19世紀に活躍した科学者120名と、詩人と作家123名の「処女作をだした年齢」と「最高傑作をだしたときの年齢」の関係を調べた。
 すると、科学者が処女作をだした平均年齢は25.2歳。詩人と作家の法は、24.2歳であったことがわかった。
 最高傑作をだした年齢は、科学者が35.4歳。詩人と作家の場合は34.3歳であった。
 要するに、最高傑作をだすには、仕事を一通り覚えて、作品を世にだしはじめてから10年くらい時間がかかる、ということである。
 嗚呼、人が成果をだすには、長い時間がかかる。そんな簡単に傑作なんてでない、ということである。
 —
 この論文を読んでいて、「プチ鬱」になった。
 小生、今年で33歳である。
 処女論文を世に問うたのは25歳(本人は問うたつもりだったが、誰も気にしてなかったかも・・・)。Raskinのデータから考えると、最高傑作まで残り2年しかない。論文や書籍を書くには長い時間がかかることを考えると、はっきり言って、マズイ。つーか、もう間に合わねんじゃね。
「最高傑作は間に合わないんで、プチ傑作あたりで、ひとつ手をうちませんか、ねぇ、ダンナ」
 と「越後屋風」に手をすりすりしてみたけど(誰がダンナよ)、まぁ、ここはあくまで頑張るべきだろう。
 大学では、まだまだ若手である。
 「中原君は、まだ生まれてもいないよ」
 と年配の先生に言われたことも何度もある。まだまだチャンスはあるだろう?
 小生、今年33歳。
 傑作をいつの日か・・・と願い、今日も走るしかない。
 いつの日か、近い将来、いつの日か。
 いつか必ず、いつの日か。

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