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2006.11.13 17:00/ Jun

インフルエンザ・パンデミック!:山本太郎著「新型インフルエンザ」

9月2日  風邪のような症状の患者が一例発生する
9月18日 患者数は6000人に拡大
9月24日 患者数は1万2000人に達し、700人の死亡が確認される
6ヶ月後 人口の25%が感染し、人口の2%が死亡
1年後  ウィルスは世界を席巻し、4000-5000万人が死亡
     – パンデミック(一般集団感染)
 —
 インドネシア、中国などアジア諸国を中心に、鳥同士の感染が広がっている新型インフルエンザ。最近では、ヒトへの感染もごく希に生じている。
 外務省国際協力局にて感染症対策にあたっている医師、山本太郎の著した「新型インフルエンザ:世界がふるえる日(岩波新書)」を読んだ。

 本書によれば、新型インフルエンザの感染状況は、現在、フェイズ1から6までの3の状況にある。フェイズ3では、ヒトへの感染は確認されていないか、ごく希にしかおこらない。
 次の段階のフェイズ4とは、ヒトへの感染が局所的に発生する状況のこと。いったん4に進めば、フェイズ6「パンデミック(一般集団感染)」に進むのは、時間の問題になる。
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 今回の新型インフルエンザは、1918年に世界を席巻したインフルエンザ(スペイン風邪と呼ばれている)同様、強毒性が予想されている。
 1918年のインフルエンザの場合、人口の半数が感染、死者は1億人という推計もある。もし万が一、新型インフルエンザが1918年と同程度のものであったとして、今回は、推計1億6000万人が亡くなる計算である。
 そして、その死の現場は凄惨を極める。
 —
 患者たちは関節痛を訴えて泣いた。高熱と悪寒に苦しみ、毛布の下でただ震えていた。下腹部の痛みを訴え、嘔吐を繰り返した。
何よりも私たちを驚かせ、おびえさせた症状は皮下気種の存在だった。皮下に空気がたまり、それが体全体に広がっていく。破裂した肺から漏れ出た空気は、患者が寝返りをうつたびに、プチ、プチと音をたてた
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 そして、痛みを訴える患者に対して、我々はなすすべはない。
まず木工職人と家具職人をかき集め、棺桶作りをはじめさせておくこと。次に、街にたむろする労務者をかき集めて墓穴を掘らせておくこと。そうしておけば少なくとも埋葬が間に合わず、死体がどんどんたまっえいくという事態は避けられるはずだ。
(米国公衆衛生学会誌)
 —
 山本氏によると、中世イタリアにおいては、インフルエンザは「天体の運動」によって引き起こされると考えられていた。インフルエンザという名前は、「天体の影響」という意味で、もともとは「インフルエンツァ」とよばれていたのだという。
 今、我々はインフルエンザの正体、すなわちインフルエンザウィルスの存在を既に知っている。そして山本氏のように、日々、インフルエンザウィルスと格闘する医師がいる。
 しかし、悲しいかな、正体を知りながらも、それに打ち勝つことはなかなか難しい。どのような特徴と構造をもったウィルスが、いつ、どこで、どのような感染経路をたどって出現するかは、誰もわからないからだ。
 しかし、一つだけ確かなことがある。
 新型インフルエンザの世界的流行 – パンデミック – はいつか必ず起こる。
 パンデミックが起こったとき、我々一人一人に何ができるか。秒針がカウントダウンを刻む中、そろそろ考えるべきときに来ている。
 

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