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2013.9.3 06:34/ Jun

「うちの会社は特殊ですからね!」 : 「特殊」の向こうに透けて見える「一般」、「一般」の奥にひそむ生々しい「特殊」

 仕事柄、企業の人事関係の方々、現場の方々に、ヒアリング(聞き取り)をさせていただく、機会が多々あります。
 正確な数字は数えたことがないので、わかりませんが、かなり多くの方々から、お話を伺います。
 先だっては、某社の研究開発の拠点をお邪魔させていただきました。ご対応いただいたIさん、そしてFさん、Kさん、ご同行したSさんに、この場を借りて心より感謝いたします。ありがとうございました。
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 さて、現場のヒアリングを重ねておりますと、興味深い情報や表現に出会うことがあります。
 今、この場で、ひとつひとつの表現をご紹介できないことは誠に残念なのですが、よく出会う、かつ印象深い現場の方々のセリフのひとつに、こうしたものがあります。
「うちは、特殊ですからね・・・」
「うちの状況は、特殊だと思うんですよ・・・」
「うちの会社は、特殊ですけどね・・・」
 要するに、このセリフが口に出されるのは、現場の方々が、「今、自分たちが置かれている状況、抱えている問題・状況」は「特殊である=他社や他とは少し違う」ということをご認識なさっている場合ですね。
 おそらく営業などで多くの会社を訪問なさる方も、クライアントの方から、これに類するセリフをお聞きになることは、少なくないのではないでしょうか。
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 もちろん、現場とは「現在進行形」「具体性」「複雑性」「予測不可能性」「即興性」などの、5つのキーワードで彩られる場所です(小田 2010)。
 そこは「現在進行形で、個別具体的な物事・出来事が進行し、その様相は複雑きわまりなく、かつ予測不可能な場所」であり、ひとつとして同じ現場は存在しません。だって、人も違うし、状況も違うんだもん。
 要するに、この意味では「それぞれの組織の現場=特殊」ということになります。
 しかし、一方で、複数、それも、一定数以上の多くの現場を訪問させていただいたり、現場でお話を伺っていると、
「嗚呼、ここでも、他と同じ課題に苦しんでおられるのだな」
「嗚呼、この組織の方々の抱えておられる課題は、他のA社やC社の課題とすごく似ているな」
「この規模の、この状況の職場だと、こんな状況を抱えやすいのかもしれないな」
 と思うことがあります。
 要するに、多くの組織や職場を縦断しておりますと「うちは特殊」という「唯一の視点」でものを見るのではなく、「一般化できる部分」がゼロではなく感じる瞬間があります。
 年に数度あるわけではありませんが、「特殊な部分」と「一般的な部分」が分かれて見えてくる瞬間が、たしかにあります。
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 最近、ヒアリング後、記録を整理していて、とみによく思うことがあります。
 全く個人的なことで恐縮ですが、「特殊」なものを「特殊」なものとして扱うことは、どうやら、「僕がめざすべき研究のベクトル」ではないように思います。あくまで、僕は、の話です。他の人がどうかは知りません。
 また、自らが現場に足を向けることなく「組織とは・・・である」的な結論を洗練された手法で導き出すこと、すなわち「完全なる一般の世界」に生きることも、また「僕がめざすべき研究のベクトル」ではないと認識し始めています。くどいようですが、他人がどうかは知りません。
 僕のキャラや性格にあい、かつ、社会的な意義を感じるような、研究のあり方、研究の表現とはいかにあったらよいのか。思えば、十数年弱、そんなことを考えてきました。しかし、いまだ、答えは見つかりません。むしろ、答えなど、最初からなかったのかもしれません。
 むしろ、もうこうなったら、今できることを続ける
「一般と特殊の谷を、泥臭く、彷徨(さまよい)続けてみるか」
 とも思っています。 
「特殊な状況で生きる方々の生の声」に目指しつつ、一般化可能な部分をいかに探すか。「一般化」したものの奥にひそむ、ドロドロとした生々しい「特殊」の声をいかに疲労か。
 
 「特殊」の向こうに透けて見える「一般」を見る。
 一般の向こうに見える「特殊」に心配りをする。
 ヒアリングノートをつけるたびに目がショボショボしても、最近注目されている統計手法を学ぶことに少し疲れても、たとえそれらが回り道で時間がかかっても、特殊と一般の谷を「彷徨(ほうこう)」という表現が、「自分には合っているような気がするのです。
 もしかすると「彷徨」というよりも、「漂流」かもしれません(笑)。「また、中原は、どっちつかずだよ」と、また言われそうですが。
 この「一般と特殊の谷をめぐる旅」に終焉があるのかどうかは知りませんが、精神力と体の続く限り、「彷徨」を続けていきたいと感じています。
 そして人生は続く

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