Essay From Lab : Supplement3. 情報の感触、情報の気配 - 石井裕氏のICC展示会

2000/06/24 Update

 先日、NTTのICC(Inter Communication Center)で開催された「Tangible Bits:情報の感触、情報の気配」という展示会に行って来ました。CSCW(Computer Supported Cooperative Work:コンピュータによる協調作業支援)の研究領域に関心のある方なら、「Tangible Bits」と聞いてハッとするはずですね。

 この展示会は、「Tangible」というキーワードをもとに、MIT(マサチューセッツ工科大学)のMedia Lab.(メディアラボ)にて研究をなさっている石井裕さんの研究グループの展示会なんです。今回は、石井さんと一緒にMITの学生さんも十数名来日しました。あとで、石井さんにお聞きしたのですが、MITの研究グループが今回の規模で来日して研究発表することは、今回が最初で最後になるだろう、とのことでした。その意味でも、非常に貴重な展示会だったように思います。

 ところで、Tangible(タンジブル)ってどういう意味なんでしょう。リーダース英和辞典によると、その意味は、以下のようになります。

tan・gi・ble

触知できる; 実体的な, 具体的な, 有体の, 有形の; はっきりと理解できる, 明白な, 確実な; 〈財産が〉有形で評価の可能な.

 要するに、Tangibleっていうのは、「実体(カタチ)がある」ってことらしいですね。ここでは、Tangibleを「手でつかんで操作できるような実体のある物理オブジェクト」で、Tangible Mediaっていうのは、「物理的オブジェクトとデジタル情報をリンクしたようなメディア」であるってことにしておきましょう。

 一般には、「情報」というものは、カタチをもつものとは捉えられていません。ニュースや本を見ていると、「サイバースペースは実体がない」だとか「コンピュータと接していると間接体験しかできない」などという意見を聞くのは、情報を「カタチあるもの」としては捉えていない証拠でしょう。

 石井裕さんの研究グループでは、この「情報」にカタチを与え、人間が手でつかんだり、操作可能になったりするようなメディアのデザインの方法を研究していると思われます。具体的に言うならば、ホントウに存在する物理オブジェクトと、デジタルメディアを接合させ、より人間が直感的に操作可能なインターフェースを実現しているってとこでしょうか。

 今回の展示会を見学させてもらって、特に僕が思ったのは、学習環境をデザインするという際に、僕は、これまでコンピュータの既存のデバイスにとらわれすぎていたのかなーってことです。モニタとかキーボードとかマウスとか、どう考えても、こうした既存のデバイスにとらわれている限りにおいて、新しい学習の環境のブレークスルーはなかなか見つからないような気がしました。

 あとは、学習環境をデザインする際に、「Play(遊び)」という側面を無視できないってことです。これはどの作品を見ても痛感させられました。すべての作品に遊び心があると言っていいです。僕は、どうも「学習」を「おおげさなモノ」として、「かたくるしいモノ」として捉えてしまう傾向があるようで、これまでいくつかシステム開発をしてきていますが、どうも「オモシロく」なさそうなんですよね、そこで学んでいる人が。まぁ、それは言い過ぎとしても、「笑み」がこぼれないシステムなんです。確かに、学習にはツライ側面もあるし、自己と対峙しなければならないような側面もあると思うんですが、気軽にかつ「Playful」に学べる環境も非常に重要な気がします。次の僕の目標は、「学習者がふっと笑みをこぼしてしまいようなPlayfulなシステムをつくること」になりそうな気もします。

 以下、Tangible Mediaの展示会の様子を、写真を交えてお知らせします。

Overview of Open Studio "Tangible Bits"
 

 Tangible Bitsは、このような開放的なスペースに、各作品が展示され、参加者が実際に作品に触れ、体験ができるようになっていました。
  

ISHI, Hiroshi @ MIT Media Lab.
 

 石井さんは、各作品のあいだを回りながら、来場者に自ら説明をなさっていました。少しお話をさせていただきましたが、とても丁寧でいて、全身からエネルギーがみなぎるような方でした。左の写真では、PingPongPlusという作品で、石井さんが卓球をなさっているところです。
  

PingPongPlus
 

 PingPongPlusは、卓球とデジタルが融合したような卓球です(意味不明)。卓球台の表面にセンサーがとりつけられていて、ピンポン玉の動きに応じて、写真に見るような模様やお魚の映像が投射されます。非常にオモシロイです。
  

ClearBoard
 

 日本のCSCWシステムとしては、有名すぎるシステムです。遠隔地にいる相手の顔を見ながら、協同作業が営むことを目的にしており、共有の透明のガラスに、相手の顔と共有ボードが映し出されます。
  

I/O Bulb
 

 I/Oバルブは、リアルタイムに建築物の影の動きや風速などをシュミレーションできる電球です。
  

Pinwheel
 

 このかざぐるまは、「デジタルの風」を実際に人間が感じるためのインターフェースです。この日は、MITのメールサーバーのトラフィックが表現されていました。要するに、トラフィックに応じて、かざぐるまが回ったりするということでしょう。サイバースペースと現実の世界をつなぐ、「バックグラウンドインターフェース」として位置づけられています。
  

Music Bottle
 

 ミュージックボトルは、文字通り、「音楽のはいったボトル」ですね。ボトルの栓をあけしめすることで、音楽がかなでられます。要するに「ボトル」というシンプルなインターフェースとメタファを用いて、音楽をコントロールしようと言うことでしょうか。
  

Triangle
 

 3角形の積み木の接続のされ方が、リアルタイムにデジタル情報に反映されるというシステムです。3次元のデジタル情報が物理的オブジェクトとして操作できます。
  

Curlybot
 

 カーリーボットは、動きを緻密に記録し、再現するおもちゃですね。実際にカーリーボットを動かして動きを記憶させると、そのあとで、それが忠実に再現されます。幼児の表現メディアとして位置づけられているようです。
  

Ueda Sensei @ Kounan Woman Univ.
 

 会場で上田先生@甲南女子大学にお会いしました。CSCW研究に興味のある方、誰かには会うだろう、と思っていましたが、よもや上田先生にお会いできるとは。いろいろお話を聞かせてくれました。ありがとうございました。
  

NAKAHARA, Jun
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