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2018.9.18 06:36/ Jun

あなたの会社では「OJT道」がまだ機能していますか?:OJTを支える「3つの時間」とは何か?

 OJTがうまく機能するためには「3つの時間」が必要なのではないか?
  
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 嗚呼、寝ても覚めても「人材開発バカ」の中原です(笑)
  
 先週の三連休の中日は、関西大学で開催されるキャリアデザイン学会の大会シンポジウムに登壇させていただく機会を得ました。佐藤厚先生(法政大学)、武石恵美子先生(法政大学)、脇坂明先生(学習院大学)、中村恵先生(神戸学院大学)、藤本真先生(JILPT)の「末席」に加えていただき、議論に参加しました。ありがとうございました。
  
 今回の学会シンポジウムのテーマは、ドコドコドコドコドコ!
    
 OJT(On the job training : 仕事のなかで行われる人材育成)
  
 です。
  
 従来、上司部下間で担われていたOJTが「機能」しなくなったといわれて久しいですが、このテーマに対して、様々な先生がたが、独自の立ち位置で「料理」して論じておられました。
 
 末席の小生も、同様に、自分の「立ち位置」から
  
 「OJTという言葉でくくるな、そこで思考停止するな」
 「OJTという言葉のもとで、誰が何をやっているかをミクロに見ていくことが重要だ」
 「OJTのブラックボックスを開けろ!」
  
 という主張を、3つの自分のかかわった研究を紹介させていただきながら、行わせていただきました。以下に当日のパワーポイントを公開させていただきますので(いらないとは思いますが・・・期間限定ですので、ご入り用の方はお早めに!)どうぞご笑覧ください。
  

  

  
キャリアデザイン学会・中原のパワーポイント(配布用)
https://23.gigafile.nu/0923-cf099428a86d12bb219be23aba8a7a263
  
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 今回のシンポジウムを通して、つくづく思ったことは、冒頭のひとことです。
  
 それは端的に申し上げれば、
  
 OJTがうまく機能するためには「3つの時間」が必要なのではないか?
  
 ということでした。
  
 その「3つの時間」とは
   
 1.「ともにいる時間」
 2.「永遠の時間」
 3.「循環する時間」
  
 この3つの時間がない限りにおいて、上司ー部下のあいだで、いわば親子の「しつけ」のように行われる、伝統的なOJTは、なかなか奏功しないのではないか、というのが僕の仮説です。
  
 ひとつめの「ともにいる時間」とは、端的に申し上げれば、「上司ー部下が、ともに、職場で長い一日を過ごすこと」です。長時間労働かどうかは知りませんが、そうした長い時間を職場で過ごさなければ、助言・指導の機会は生まれにくいのではないでしょうか。
  
 ふたつめの「永遠の時間」とは、「長期雇用」です。経済学では、OJTの存立要件として「長期雇用」との整合性を論じますが、OJTが奏功するためには、OJTで教えた分のコストを回収できるだけ、従業員が長く企業で働いて貰えることが重要です。
  
 みっつめの時間とは「循環する時間」です。
 循環する時間とは、「かくして奏功したOJTによって育てられた部下が、成長し、その後、上司になって、今度は新たな部下を教えること」です。このように、伝統的なOJTは、世代継承性を前提にしているような気がします。
  
 ここまでをまとめて端的に申し上げますとね、もはや日本企業の伝統的なOJTとは「武道」とか「剣道」のように「道」のようなものなのです。技を世代間で継承し、それを後世に伝える。そのためには長い長い時間が必要です。
  
 端的に申し上げれば、
  
 日本企業に特徴的なのは「OJT」なのではなく「OJT道」ではないか?
  
 というのが僕の考えです。
    
 もちろん、それが「ダメ」というわけではありませんが、その存立条件が少しずつ失われている、ということなのかな、と思います。それが市場環境などにあわなくなってきているのではないでしょうか。
 だから、人を育てる科学の知見を参照しつつ、現代社会にあった「OJT」をわたしたちは、作り直さなければならないのではないか、というのが僕の思いです。
  
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 ちなみに、繰り返しますが「ともにいる時間」「永遠の時間」「循環する時間」という3つの時間が毀損されかけているのが、現代企業の職場です。
  
 上司はプレイングマネジャー、会議はテレカン。上司と部下はいつも同じ場所に、同じタイミングでいるわけではありません。かくして「ともにいる時間」が毀損されます。
     
 また現代の雇用は、以前よりは確実に「短期化」していること、流動化していることも、また事実です。長期雇用を前提にせず働く世代も、生まれてきているような気がいたします。そして長期雇用を前提にしないのであれば、「循環する時間」はありえません。かくして「永遠の時間」と「循環する時間」は、同じく存立が怪しくなってきています。
  
 わたしたちは、現代社会にあった新たなOJTを、それぞれの文脈・領域で創り出していかなければならないのではないか。わたしの研究は、それぞれの文脈にあった「中程度の理論」しか生み出さないが、その繰り返しこそが、希望なのではないか。当日は、そんなお話をさせていただいたつもりです。
  
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 OJTと時間・・・シンポジウムの間中、僕は、そんなことを考えておりました。
    
 あなたの会社には、「ともにいる時間」「永遠の時間」「循環する時間」、ありますか?
    
 そして
   
 あなたの会社では、OJTが機能していますか?
    

  
キャリアデザイン学会・中原のパワーポイント(配布用)
https://23.gigafile.nu/0923-cf099428a86d12bb219be23aba8a7a263
  
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 今日は、OJTとOJTの存立基盤となる諸要素を、時間軸の観点から論じました。これは、実はモティーフが存在します。「時間」ときいてピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんが、見田宗介先生の「時間の比較社会学」です。我が議論は、見田先生の議論には1ミリも到達しませんが、かつて先生が、様々な部族社会を「時間」の観点から論じたように、それぞれの現代企業がもっている「時計の針の進み方」を研究するのも、なかなか面白いなと感じました。
  
 実は、OJTが前提にしている「時間の進み方」と、従業員の方々の「時間感覚」、マネジャーの方々の「時間感覚」が少しずつ「ズレ」てきているような気もいたします。
  
 繰り返します。
  
 あなたの会社には、「ともにいる時間」「永遠の時間」「循環する時間」、ありますか?
  
 そして
  
 あなたの会社では「OJT道」は、まだ機能していますか?
  
 そして人生はつづく
  
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