NAKAHARA-LAB.net

2018.5.28 05:50/ Jun

はちゃめちゃ貴重な「現場の実践知」が、ズッコけるほど「伝わりにくい」理由とは何か?

人材開発の世界には「理論知」と「実践知」という2つの知識があります。
「豊穣な実践知」にくらべて「理論知」でわかっていることは、もしかすると「1割」以下かもしれません
それなのに一般に、人材開発の授業では「理論知」を伝えることはできますが「実践知」はなかなか伝えられません
    
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 冒頭お話しした内容は、ここ数週間、ひそかに、僕が頭のなかで考えていることです。
    
 ここで「理論知」とは「命題のかたちで表現されており、仮説検証されている形式化された知識のこと」。対して「実践知」とは「実践の現場で適切な判断をくだすために駆動する、暗黙的な知識のこと」をいいます。
  
 冒頭申し上げたように、「人材開発の世界には、理論知と実践知という2つの形式の知識が存在しています。しかし、2つの知識が、教育機関において、いわば平等に扱われているか、というと、それは違います。2つの知識の「共有のされ方」、あるいは「世代継承のされ方」には、明らかな「偏り」が存在しています。
    
  ▼
     
 たとえば、人材開発研究には「研修研究」があります。
 教育機関において、研修研究に関する理論知=「研修転移理論」や「研修転移研究の過去の知見」については、いくら教えることができても、その実践知を教えるのは並大抵のことではありません。
     
 ・研修参加者のあいだに、冒頭、「心理的安全」を生み出すために
  ファシリテータはどのように「動く」のか?
  
 ・研修参加者のあいだに「一体感」を生み出しながら、
  クラス運営を行うためにはどうするか?
  
 ・研修参加者に刺さる「ラップアップ」をするためにはどうするか?
   
 は、なかなか教えられません。
   
 しかし、これらができた方が、人材開発は、さらに効果的に駆動します。
 究極いえば、理論知も実践知も、ひとしく必要なのです。しかし、それらの探究や受容には、明らかに「偏り」があるのが現状です。
  
  ▼
    
 実践知が、なかなか「探究」されず、かつ、教育機関において正しく伝えられない理由のひとつは、
   
 1.実践知は、研究者が必ずしも保持しているとは限らない
   実践知を保持しているのは、現場にたつ人である
   
 2.実践知は、保持している当人すら「知識」として認識していないことがある
  
 3.実践知は、なかなか命題のかたちで記述しにくいので、伝達ができない
  
 4.実践知は、実践の流れに応じて即興的に発揮され、
   さらにその流れに応じてフローしていくので、とらえどころがない
  
 という側面があるからです。
   
 そして、そうであるがゆえに、実践知を学んでもらうためには、工夫が必要です。
 実践知を保持している人間が仮に見つかり、その方が自らの知識を言語化できる場合、「学習者に、実践が行われている、まさにその現場に参加してもらい」、「当事者として実践の観察」を徹底的に行っていただくと同時に、その「種明かし」をあとでしていく必要があるのかな、と思います。
  
 そして、僕自身も「研修やワークショップの構成に関する知識」であるならば、そのように伝えようとしています。
 先ほどの研修の事例でいえば、学習者には「受講生として研修を受けてもらいつつ、たまに、突然、教える方がメタ(上位)の視点にたち、
  
 なぜ、先ほど、この場を・・・・のように組織化したのか?
 なぜ、この場で・・・・の指示をだしたのか?
  
 を発問し、考察してもらう、ということです。
 突然、教え手が「立場」をかえて「教え手の意図」を語ることになりますので、「学習の流れ」はブツンと切れます。ですので、「あまりやりたい方法」ではないのですが、先ほどの実践知の特性から考えてやむを得ないのかな、とも思っています。
  
 まぁ・・・人材開発のうち「研修」の「実践知」なら、この方法でもできるけど・・・OJTとかは無理ですね。
 さすがに、1 on 1を観察してもらうはちょっとね。
    
  ▼
  
 今日は「実践知」をいかに伝えるのか、という話をしました。
  
 実は、今、中原ゼミの大学2年生の有志には、僕が登壇するような講演やワークショップ、授業などに参加してもらっています。また慶應丸の内シティキャンパスの授業では、今年の僕のひそかな目標として、「31名の参加者の皆さんに、実践知をいかに伝えるか?」を、隠れたゴールにしています。
  
 実践の現場で、何が起こっているか」?
 そこで「どんな実践知が駆動しているのか」?
  
 大学で学ぶ理論知のみならず、そうした曰く言いがたい知識についても、ぜひ学んでいただきたいと思っているのですが、いかがでしょうか。
  
 また新しい一週間がはじまります。
 そして、この一週間も実践知の宝庫です。
  
 そして人生はつづく
  
 ーーー   
  
あなたの研修、やりっぱなしになっていませんか?
  

  
6月20日発売の新刊「研修開発入門 研修転移の理論と実践」のご案内です。本書のテーマ「研修転移」とは「研修で学んだ内容が、仕事に活かされること」をいいます。研修は「学ぶこと」が目的ではなく、行動を変え、成果をだすことが目的です。この研修転移をガチであつかった本が6月20日にダイヤモンド社より刊行されます。さっそくAMAZONで予約販売が開始されました!
  
本書の共著者は関根 雅泰さん、鈴木 英智佳さん、島村公俊さん、中原です。ダイヤモンド社の編集者・間杉俊彦さんが伴走してくださっています。
  
研修転移をうながす企業実践事例では、ファンケルさま、ヤマト運輸さま、アズビルさま、三井住友銀行さま、ニコンさま、ビームスさまなど、数多くの企業の皆様にお世話になりました。自社の研修事例をもとに、研修転移をいかに高めるかを論じておられます。ありがとうございます!
  
本日、カバーができました。また内容の詳細は、後日、お伝えさせていただきます。
どうぞお楽しみに!

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