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2018.2.27 06:04/ Jun

あなたの読書会や研究会を「学び多きもの」にするための、たったひとつの方法!?

 あなたのまわりには「つるし上げ系の研究会」があふれていませんか?
 あなたのまわりには「罵倒系の読書会」がありませんか?
   
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 大学や大学院では「研究会」や「読書会」といったものがよく開催されます(以下、読書会と総称)。学生の皆さん同士で開くこともございますし、教員が他の教員や、他大学の教員をつのって行うものもあります。
   
 研究会や読書会は、「参加者同士の相互扶助の原則」のもと、ふだんはなかなか読むことができない最新の論文や、古典などを、皆さん同士で持ち寄って、相互に助け合いながら、読みあうことがなされます。
  
 人は、まことに「か弱き存在」です。
 どんなに意思が強くても、たとえば500ページの大著を前にして、それを読み終えることは、まことに難しい。そのようなときに読書会や研究会は、非常に役に立ちます。みなで励まし合いつつ、解釈をしながら、読み逢うことができるのです。
  
 しかし、この研究会や読書会、実際は、なかなかの「曲者」でもあります。
 会の参加者はたいていフラットな関係であるだけに、その運用が、なかなか難しい。
   
 ドタキャンを食らわす人がでてくるのは朝飯前。もっとも問題なのは、みんなで本や論文を読んだりしたあとの意見交換で、他の人の意見に「耳」をかさずに、つるし上げてしまったり、相手の意見を全否定してしまうような方が、ときおり、でてくることです。冒頭申し上げましたように「つるし上げ」が起こったり、「罵倒」がなされたりします。
   
 そうした「困ったちゃん」が出てくると、関係者の関係がフラットなだけに、研究会や読書会は一気に「白ける」ことになりますし、「楽しくなくなる」のです。
   
 誤解を避けるために申し上げますが、研究会や読書会で、自由に意見をいうのは、まったく問題がありません。そんなことは1ミリも「忖度」をしなくてもよろしい。ただし、他人の意見や考えを尊重できない方は、まことに困惑させられるものです。
  
 嗚呼・・・昔を思い出しますと・・・今は、もうあまりないのかもしれませんが、遠い昔は、大学院生同士でも、読書会や研究会で、惨い議論をしていた方々もいました。
「自由闊達に意見を言い合う」ということを「錦の御旗」にしつつ、お互いの人格否定につながるような発言をしたり、マウンティングをしていた方もいました。
 つるし上げや罵倒が、かつては、そこそこ見られたのです。そういう研究会や読書会は、本当に何も生み出しません。
  
 惨い読書会や研究会が、生み出すものは「恐怖」であり、「学び」ではないのです。
   
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 さて、よき研究会、読書会をひらくうえで、一度は読んでおきたいのが、内田義彦(著)「読書と社会科学」(岩波新書)です。
  

    
 あまりに有名な本書は、経済史の研究者である内田義彦先生が書き下ろした「読書論」であり「社会科学論」でもあります。
 冒頭、内田先生は「読書会の運用難しい」としたうえで、その運用について、コツを述べられます。
   
 皆さん、読書会や研究会の運営のコツとは、何だと思われますか?
  
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 それは「聴くこと」です。
 曰く、
  
会が楽しく育っていくかどうか、その鍵は、参加者の一人一人がどの程度、「聴き上手」であるかどうかにあると、わたしは考えます。もちろん「話し上手」になることも大事です。が、一番の鍵は、上手に「聴くこと」にある。
(同書p9)

  
 あなたのまわりの読書会や研究会では、相互の意見を「聴くこと」ができていますか?
 まずは、このあたりからチェックしておきたいものですね。
  
  ▼
  
 ちなみに、本書は、一級の「社会科学論」としても読むことができます。
 とりわけ有名なくだりは、「社会科学を学ぶものには、概念装置が必要である」という部分です。
  
 自然科学では、研究対象(たとえばウィルスなど)を観察するために「電子顕微鏡」といった観察装置を用います。観察装置は、「見えない対象」を「見える化」するための道具立てであります。
  
 しかし、反面、社会科学にはそのようなものは、なかなかございません。社会科学には、物的(な観察)装置を持たないという「心細さ」が、常につきまとうのです。
  
 しかし、内田先生によりますと、社会科学には、かわりに必要なものがあります。
 それこそが「概念装置の獲得」なのだといいます。
 社会科学は、「読書」を通じて「概念装置」を「脳中」に組み合って、それをつかってものを見る科学なのです。社会科学を志す人は、だからこそ、読書を通じて「概念」を学ぶ必要があります。
    
 曰く
   
「概念装置をつくることによって、肉眼では見えないいろいろの事柄が、この眼に見えてくる」
(同書 p145)

   
 ということになります。
   
 たとえば、僕の分野であれば、社会化、経験学習、職場学習・・・などなどといった概念装置こそが、現場の多種多様なリアルをすくい取るための「概念装置」なのでしょう。
 こうした概念装置を脳につくりこむためにこそ、読書がある、多読がある、というご指摘は、まさにそのとおりなのかな、と思います。
   
 皆さんの脳には、どんな「概念装置」がありますか?
   
  ▼
   
 今日は、内田先生のご著書を紹介しながら「読書」と「社会科学に必要な概念装置」のお話をさせていただきました。入試にめどがつき、ここから、春にかけて、大学では、多くの読書会、研究会、合宿などが開催されるものと思います。
   
 本書は出版されたのが、今から33年前の1985年。すでに40刷を超える、いわゆる「古典」です。そうした会を開催する前に、ぜひ読んでおきたい一冊かと思います。
  

  
 学び多き研究会、知的興奮のある読書会を!
  
 そして人生はつづく
  
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