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2017.12.18 05:58/ Jun

仕事の振り返りをめざす「教訓発表会」を効果的に実施するには、どうすればいいのか?

 仕事の振り返りをめざす「教訓発表会」を効果的に実施するには、どうすればいいのか?
  
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 先日、ふだんより共同研究でお世話になっているトーマツイノベーション株式会社の眞﨑社長から、ご縁をいただいて、同社で実施されている「教訓発表会」を見学させていただく機会を得ました。
  
トーマツイノベーション株式会社
https://www.ti.tohmatsu.co.jp/  
  
 この「教訓発表会」には、同社の中途採用社員のみなさま30名弱の方々がご参加なさっており、1日かけて「仕事の教訓」を発表なさっておられました。
 見学をご許可いただいた眞﨑社長、高橋さん、そして、同社の社員の皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
  
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 当日は、3名の方々(営業、デザイン、研修講師)が、仕事の中で得られる教訓を、だいたい20分ー30分程度で発表し、他の方々から意見やフィードバックをいいただいておりました。
 皆さんの発表や教訓は、どれも興味深く、様々なことを考えながら、僕は話を伺っておりました。ご登壇なされた皆様、まことにお疲れ様でした。
    
 個人的に特に印象深かったことは、以下の3つです。
    
 1.経験学習で生み出す「教訓」は、どのレベルまで「言語化」すればいいのか?
 2.経験学習で生み出したい「教訓の抽象度」とはどこに設定するのか?
 3.経験学習で生み出した「教訓」の「適用可能性」をいかに担保していくのか?
 
 今日はそのことを少し述べてみましょう。
  
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 まず1「経験学習で生み出される教訓の言語化レベル」とは、「得られた教訓が、どの程度、赤の他人に伝わるまで、言語化するべきなのか」というものです。
 全くコンテキストが異なる仕事をしている人にまで、教訓が伝わるようにするには、メタファや喩えを使うなど、「教訓をわかりやすく伝える工夫」が必要であるように思います。
  
 一般に、経験学習では、自分の業務を振り返り、それに「べったりとはりついた教訓」を、生み出します。この特性上、経験学習で生み出される教訓は、「自分にしかわからない言葉」で表現されがちです。
  
 もし新入社員に教えるのだとしたら、その教訓を、なんと教えるのだろうか?
  
 こうした視点で「教訓」を見直していくと、興味深いのかな、と思っていました。
  
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 2「経験学習で生み出したい「教訓の抽象度」とはどこに設定するのか?」という課題は、教訓を、どのレベルまで抽象化、一般化するべきなのか、という課題です。
  
 先ほど申し上げましたように、経験学習では、自分の業務を振り返り、それに「べったりとはりついた教訓」を生み出します。
  
 教訓発表会では、それらを発表し合うのですが、

 業務Aについての教訓A’
 業務Bについての教訓B’
  
 という風に、「業務ごとに、ひとつの教訓」を発表するのか、あるいは
  
 業務Aと業務Bを振り返って得られる教訓C
 =そもそも業務を行うときに、気をつけるといい教訓C
  
 を発表するべきなのかは、なかなか興味深い論点なのかな、と思っていました。
 
 すなわち、経験学習によって得られる教訓、概念というものは、「階層」をなしているということです。
 この場合、教訓Cは、「業務A」と「業務B」それぞれの教訓ではなく、「業務Aや業務Bなど、業務全般にとりかかるときの教訓」ということで、より抽象度の高いものになっているはずです。
   
 教訓発表会では、どのレベルの教訓を述べ、議論するのか?
  
 これも、なかなか興味深い論点です。
 効果的な発表会を運用するためには、求めれる抽象度のレベルをどこに設定するのかを決めておく、ないしは合意しておく必要があるなと思いました。
  
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 3.経験学習で生み出した「教訓」の「適用可能性」をいかに考慮していくのか、とは、得られた教訓を、いかに他の業務にまで活かしていくのか、ということです。
  
 ある業務Aによって生み出された教訓Aは、業務Aに似た業務A’には適用が比較的容易であろうと考えられます。
 すなわち、業務Aと業務A’の「あいだ」の「仕事の類似度」が高ければ高いほど、その教訓が生きる可能性が高まると予想されます。
   
 逆に、得られた貴重な教訓も、業務の類似度が高くない場合や、仕事のコンテキストが相当異なる場合には、それを有効に利用することは難しくなります。
 ただ、類似度が低い、コンテキストが違うからと言って、まったく他人の経験から学べない、というのであれば、このような会を催す意味が薄れてしまいます
  
 ということは、教訓を発表する側のみならず、教訓を聞く側にも、それ相当の知的操作が求められる、ということです。
  
 教訓をただ単に聞くのではなく、業務の類似性やコンテキストを考え、いかに自分のコンテキストに「適用」しようとするのか。
 他人の教訓を、いかに、自分の土俵にひきつけて解釈するのか?
 そうした知的操作を行っていく必要があるのだろうな、と思っていました。
   
 こうして考えてみると、教訓発表会とは、なかなか知的にハードな勉強会です。
 まことにお疲れ様でした。
  
  ▼
  
 トーマツイノベーションさんでは、中途採用社員の方々が集まり、このような勉強会を定期的に開催しているそうです。こうした勉強会を行うと、他人の教訓から学ぼうというだけでなく、「他の中途採用社員が、どのような業務を担っているのか?」がわかるのだと眞﨑社長はおっしゃっていました。
    
 昨今は、雇用の流動化によって、中途採用社員の割合が増えている企業も増えているような気がします。そのような企業では、「お互いに、どのような業務を行っているかすら、わからない」という現象が生まれているところも、少なくない、と聞きます。
 中途採用社員へのサポートということで、こうした取り組みを行っていくことも、また一計なのかなと思いました。
   
 そして人生はつづく
    
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