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2017.10.13 06:51/ Jun

「模擬フィードバック演習」で用いる「自社ケース」はいかに作成すればいいのか?

 新刊「実践!フィードバック」には「模擬フィードバック演習」というのがプチ教材がついています。上司・部下役にわかれて、フィードバックのロールプレイングを行うときに用いるケースです。
 
 
 
 なお、ここでフィードバックとは、さまざまな定義がございますが、下記の2点から成立する部下育成のスキルです。
        
 1.耳の痛いことであっても、部下に「現状」を通知するスキル
 2.部下の意見を傾聴し、立て直しを支援するスキル
  
 詳細は、下記の書籍をご覧くださいませ!
   

  
 「模擬フィードバック演習」とは、これら2つのスキルを鍛えるためのトレーニングです。
 通常、模擬フィードバック演習では、ペアになった2名の管理職が、ケースを読み込み、上司役・部下役になって、フィードバックのトレーニング(練習)をロールプレイングをしていただきます
  
 部下にフィードバックは、概念やフレームワークを理解しても、絶対に「スキル」は向上しません!
  
 これは著者として断言できます!
  
 フィードバックに必要なのは「フィードバックする経験」と「フィードバックを受ける経験」です。
  
 フィードバックは、自ら他者に対してフィードバックすることでしか、向上しません。
  
 あるいは、
  
 フィードバックは、自ら為したフィードバックに対して、他者からフィードバックを受けることでしか、スキルが伸びません。
  
 本当のことを申し上げますと、先ほど「フィードバックは、概念やフレームワークを理解しても」と申し上げた部分も、かなり怪しいものです。
  
 正確に申し上げますと、
  
 フィードバックは、実際に自らフィードバックすることや、自ら為したフィードバックに対して他者からフィードバックを受けることを通して、はじめて「理解」できる
  
 のです。
  
 ですので、「模擬フィードバック演習」は極めて重要な「フィードバックの学習機会」です。
 しかし、、、この「模擬演習」というのが、極めて「くせ者」です。
   
 模擬演習をするためには、上司役・部下役にわかれて演習を行うので「ケースを書くこと」が必要になります。
  
 そして、このケースは、
  
 自分の会社・組織で、もっとも起こりうる事例をもとに書き起こした方が、学習効果は高い!
  
 と言えます。
  
 根拠はさしてありません(キリッ!・・・ないものにはないといいます)。
   
 しかし「登場してくる人物のあるある感」や「評価制度や用語の癖」などが、自分の組織にフィットしていた方が、学び手は、事例にのめり込みやすいと思います。
  
 ということは、フィードバック研修を行うためには、理想的には、自社のケースを書き起こした方がいいということになります。
  
 これまで僕がお引き受けしてきたフィードバック研修では、これらの「模擬演習」のケースを、人材開発の方々とふたりで書き起こしてきました。
 お引き受けしたといっても、回数はごくごくわずかです。
 効果の高いフィードバック研修をするには、いったんやると3時間は最低かかってしまい、僕には、その時間は捻出できないこと。またケースをそのつど執筆しなければならないこと、共働きの子育て中なので、できるだけ出張は控えていることなどから、お引き受けできない事例が続いています。まことに申し訳ございません。
  
 ケースの執筆は、めちゃくちゃ難しいというわけではないのですが、いくつかのコツがございます。
  
 まずもっとも大切なのは、ケースの執筆は、書かなければ上達しないということです。
  
 フィードバックのケースは、自ら書くことで上達します。
  
 そのうえ
  
 書かれたケースをもとに実演してもらうこと
  
 さらには
  
 実演されたケースに対して、実演してくれた人からフィードバックをもらうこと
  
 で上達します。
    
 あとは、いくつかのコツを押さえることです。
 コツはですね・・・僕の頭の中にはあるのですが・・・うまく言葉にできない。
   
 敢えていうなら
  
 1.トレードオフをつくる
 2.伏線をはる
 3.立て直しに向かうシナリオをつくる
 4.見えの違いをつくる
  
 くらいでしょうか。
 これは、またお時間の許すときにでも。
      

    
 フィードバックの模擬演習のケース執筆に関しては、これまで、人材開発担当者の皆さんと共同で行ってきましたが、既述しましたように僕には時間がありません。
  
 それではあまり普及しないので、もし皆さんにニーズがあれば、1回だけ「ケースの執筆講座」を開かせていただこうかなとも考えています。
  
 ただ、実現のためのハードルは低くはありません。
  
 まず、場所もない、人出もない(笑)
 おまけに、コンテンツは僕の頭の中にしかない。
  
 実際のケースをA4用紙2枚×2枚(計4枚)で気合いで書ける方がいるかどうか?
 そのうえで、こってりとフィードバックを実演してもらいつつ、
 その後に、ケースに対してフィードバックをすることができるだろうか?
  
 たぶんケースは書き直しを余儀なくされる。
 それでケースを書き直し、もう一度、戻ってきてくれるだろうか。
 最低半日×2回のワークショップになりそうだけど、その時間をとることができるだろうか・・・。
 また、自ら仕事を増やしているような気がしているのですが・・・。
  
 できれば、ここでつくったケースは、差し支えない範囲で、コミュニティ内でシェアなどができるとよいのではないかと思います。
  
 新刊にも新書版にも書きましたが、僕としては、フィードバックを、ある種の「社会貢献」のつもりもあって書いています。
   

  
 多様性あふれる社会、仕事人生が長期化していく社会にあって、わたしたちは、「正しく長く働き続けなければ」なりません。
「正しく長く働き続ける」ためには、自らが正しい方向に、どのような向きで、向かっているのかを、常にモニタリングしながら、自分の体勢を必要に応じて「方向転換」しなくてはなりません。
 常に自らのあり方をモニタリングしながら、自分を立て直す資源になるのが「フィードバック」です。
  
 多様性あふれる社会、仕事人生が長期化していく社会にあって、フィードバックとは重要な学びと変化の機会を提供するのです。
   
 僕としては、
  
 よきフィードバック文化を、この国の実践現場に根づかせること
   
 ができたとしたら、うれしいことです。
  
 そして人生はつづく
  
 ーーー
  
新刊「実践!フィードバック」が10月19日に刊行です。すぐに使える「会話例」と「フレーズ」でフィードバックの実践方法を学ぶことができます。イラストなど図版などを駆使して、よりわかりやすく書かれています。はじめてリーダーになる方、管理職になる方はもちろん、前著「フィードバック入門」をお読みの方で、「フィードバックの復習をしたい方」におすすめの内容です。どうぞご笑覧くださいませ!
  

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