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2017.9.19 06:06/ Jun

よかれと思って「手をさしのべ」たら「相手の学ぶ力」をそぎ落としてしまった話

「環境整備」が「自己学習」を「疎外」する
    
   ・
   ・
   ・
  
 世の中は、まことに「皮肉」に満ちています。
  
 相手のことを思って「よかれ」と思って、研修システム、教材、学習環境を「整備」したら、学習者の方が「おんぶにだっこ」になってしまい、「やってくれて、あたりまえ」と勘違い!、「自ら学ぶことを放棄してしまった」という事態が起こってしまった、ということですね。
 人材開発業界では、年間に5000件くらい、よく聞く話です。
  
 しかし、じゃあ、だからといって「環境整備」が「ゼロ」でいいか、というとそうではない、というのが、この命題のもっとも難しいところです。
  
 社会化研究の知見によれば、先ほどとはまったく「逆」・・・すなわち
    
「環境整備」が「自己学習」を「促進」する
    
 ということも、また「真」だからです。
   
 要するに、会社や組織が、新入社員を迎え入れる取り組みをしてこそ、新入社員が自ら組織のなかで、動き出し、学び始めることができる、ということです。
   
 新入社員にとって、新たな組織に参入することは
    
「目隠しをしながら暗い洞穴に入る」
    
ようなものです。
    
 せめて、誰かのサポートや声かけがなければ、彼 / 彼女は、一歩前にでて、手さぐりで洞穴の中を進むことすらできないのです。前に「火の粉がある」のかもしれない。一寸先は「崖」かもしれない。
    
 手を前につきだし、一歩、前に踏み出す、誰からのサポートや声かけが必要です。
  
 また、うがった見方をいたしますと、
  
 「環境整備」が「自己学習」を「疎外」する
  
 という命題は、「組織が新入社員に対して何もせず、放置すること」を正当化する言説としても機能してしまうので注意が必要です。
  
「OJTとか研修とかで、人材育成しはじめると、新入社員は「甘え」て、自ら学ばなくなるんで、うちには何にも仕組みがありません。わっはっは」
  
 という組織は少なからずあるものです。「環境整備が自己学習を疎外する」という命題を逆手にとって「何もしないこと」を正当化する典型例なので、注意が必要です。
  
 ▼
  
 さて、
  
 「環境整備」が「自己学習」を「疎外」する
 「環境整備」が「自己学習」を「促進」する
  
 という2つの命題が、程度の差こそはあれ、どちらも「真」だとするならば、わたしたちは、何をすればいいのでしょうか? 
  
 あまりに「凡庸」な、その結論は、
  
 「環境」か?、それとも「自己」か?
  
 という二分法を「やめる」ということにつきます。
  
 これを言ってはおしまいよ、なのですが、結局、どちらも「必要」なのです。
「実務の知恵=野生の思考」は、いつだって「二分法」をやめることからはじまります。「OR思考」ではなく「AND思考」です。
  
 環境を整備しつつ、それでいて、学び手が自ら学ぶことを促す
  
 ないしは
  
 学び手が自ら学ぶことを促すような環境をつくる
  
 ということにつきるのかな、と思いますが、いかがでしょうか。
  
 これは、またこれで「難問」でしょうけれども、しかし、チャレンジングな課題であることは、間違いありません。
    
皆さんの組織では、新規参入者は、自分の能力開発を「他人任せ」にしていませんか?
  
皆さんの組織では、新入社員は、「おんぶにだっこ」になっていませんか?
  
 そして人生はつづく
  
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