NAKAHARA-LAB.net

2017.7.12 05:40/ Jun

「自分のことがわからない」ときに「自分ひとりで考え込む」と「胃液」しか出てこない理由!?

 自分のことがわからなくなったら、「他人から感謝されること」をしてみたらいかがでしょうか?
   
 これは、僕が、普段から、学生のみなさんに、アドバイスを差し上げていることです。僕はカウンセラーでも何でもないのですが、これまで15年強の教員経験から、そんなことを思います。
  
 ここで「他人から感謝されること」といっても、イコール「ボランティア」とか、大それたコトでなくてもOKなのです。誰かを手助けしてみる。誰かの役に立ってみる。そんなことをひとつでもしてみたら、どうだろう、と僕は思います。理由はあとで述べます。
  
 逆に、個人的にあまりおすすめしないのは、
   
 自分のことがわからなくなって、自分一人で考えこんでしまうこと
   
 です。
  
 考えこむのは「個人の勝手」なので、好きになさっていただければとも思うのですが、経験上、自分の内面やインサイドを、自分ひとりで、えぐってみても、なかなかロクなことがないような気もします。
  
 なぜなら、それはたいてい「自分がわからないとき」というのは「自分が弱っているとき」だからです。弱っているところに、ぐりぐりと内面をまさぐっても、余計に「もうだめですけんのー」という状態になることが予想されます。
 これに関しては、哲学者の鷲田清一さんがこんなことをおっしゃっています。
  
 胃の存在はふだんは「意識」しない。その存在は「故障」してはじめて意識する。同じように「わたしは誰?」という問いは、たぶん「わたし」の存在が衰弱したときにはじめて際立ってくる。
  
(鷲田清一「じぶん・この不思議な存在」)
  

    
 要するに「自分のことがわからない」という状態は、自分が「衰弱」してしまっている状況において起こりうるということですね。鷲田さんは、これを「胃の存在を意識すること」のメタファでご説明なさいました。
  
 いま、わたしを問うあなたは、少し疲れちゃっているのかな。
 すこしだけ、弱っちゃっているのかもしれませんね
    
 これに重ねるならば、自分が「衰弱」してしまっている状況において、自分一人で内面をまさぐっても、でてくるものは「胃液」くらいなものである、というのが、あまり育ちがよくなく、品のない僕の意見です。
  
 「胃液」いやだよねぇ。
  
  ▼
  
 それでは、「自分のことがわからなくなったら、とにかく、他人から感謝されること」を試みるとどうなるでしょうか。
  
 まず、自分は「他人から感謝されること」をなすのですから、貢献した第三者や周囲から「承認」されたり、感謝されます。こうした「ポジティブな他者からの言葉」で、まずは「衰弱した自己」を快復させることが重要かと思います。
  
 その後、「関係を築けた他人」から、「様々なフィードバック」をもらえばよいのかと思います。
  
 自分が相手からみてどのように見えるのか。
 何をやっているときにいきいきと見えたのか
  
 わたしが申し上げたいのは、
  
 「他人という鏡」を通して、自分を見つめること
  
 です。
  
 鷲田先生は、同著において、
  
 わたしというものは「他者の他者」としてはじめて確認できる
  
 とおっしゃっておりました。まさに慧眼、わたしもまったく同意見です。「他者という鏡」をとおして見た他者こそが「自己」を構成する要素はまことに大きい。
  
 R.D.レインがいうように、そうした「鏡にうつった自分のイメージ」から、自己にまつわる「統合されたストーリー」を組み立てていくことこそが、アイデンティティの確立につながるのかなと思います。
  
 自己のアイデンティティとは、自分が何者であるかを、自己に語って聞かせるストーリーである
 (R.D.レイン)
  
 しかし、それを組み立てるには「他者という鏡」を必要とするのではないかと思うというのが、まったく門外漢の意見です。
  
  ▼
  
 今日は、なんだか朝っぱらから、小難しいことを書きました。以前にも同様のことを書いたことがありますが、もはや持論ですね。
 やや複雑でしたが、でも言いたいことはシンプルです。
  
 自分のことがわからなくなったら、「他人から感謝されること」をしてみればいいのではないだろうか?
  
 ちなみに、40歳をゆうにこえても、小生も、いまだに「自分」がわかりません(笑)
 時折、本当に、このままでいいのかな、と思います。
    
 嗚呼、学生の皆さん、やや絶望的になるかもしれませんが、40超えても、そんなものなのです(笑)
 ともに、他人に感謝されることを為していきたいものですね。
 自戒をこめて
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
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