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2016.8.19 06:01/ Jun

多様性(ダイバーシティ)を生き抜くスキルは、いったいどのように「学べば」いいのだろうか?

 多様性(ダイバーシティ)というのは、この20年の人事・人材マネジメントの流行語のひとつでしょう。
  
 「ダイバーシティ」とはワンワードで申し上げますと「メンバー間の差異の程度」をしめす「大風呂敷的ワード」です。
  
 そこには、外国人、性差、雇用形態などの「外見や属性から識別可能な違い」もありえますし、考え方・キャリア観・仕事の位置づけの違いといった、なかなか「目にみえない差異」もありえます。
  
 前者を比較的わかりやすい「鉄板系ダイバーシティ」とするなら(?)、後者はさしずめ「潜在系・そもそも人は多様だったねダイバーシティ?」とも呼べるでしょう(笑)。
  
 このように「違い」や「差異」がマネジメントの文脈で語られ始めるようになっている背景には、日本の組織メンバー、その雇用慣行が、これまで、そこはかとなく「均質」であったことに由来します。
  
  ▼
  
 誤解を恐れずに申し上げるのだとすれば、それまで一部の日本企業(主に大企業)は「均質な集団」によって構成されていました。
  
 多くのメンバーが、日本に生まれ、日本語をはなし、同じような学歴バンドの人々が集まり性別役割分業意識の徹底により、男性が、主に、より多く組織にながく残る。
  
 しかも年功序列と終身雇用により、中途採用はそう多くなく、出入りも少ない。
 賃金は若い頃に安く、年をへるごとに生産性以上のものが支給されるように設計されていたため、途中で組織を去ることは「不利」なようにできている。いわゆる「ホステージ(囚われの状況)」が存在しておりました。
  
 これとは真逆の概念である、多様性(ダイバーシティ)が昨今注目される理由には、このような日本の組織慣行の変化が「後景」をなしています。
    
 わたしたちの今後の社会、そして、組織は、「違い」や「差異」がそこはかとなく拡大していくこと=多様性が高まることが予想されます。
  
 それらの差異に対処したり、差異を前向きに企業経営・組織運営に活かしていくことが、現場のマネジャー、日々のマネジメントに求められるようになる、ということになるのだと思います。
  
 ▼
  
 それでは、いったい、わたしたちは、「多様性」を生き抜く智慧やスキルをいかに学べば良いのでしょうか。
  
 ワンセンテンスで申し上げますと、
  
 多様性を「座学」で学べるでしょうか。
  
 中には、そうしたことをできる方もいらっしゃるかもしれませんが、僕の結論は異なります。
  
 多様性は、「多様性」のなかで仕事をおこない、
 そこで生き抜く経験を通じてしか、学ぶことができない
  
 これが僕の結論です。
    
 すなわち、自らを「メンバー間の差異の程度が高い場所」におき、多様性と戦いながら、そこで何かをなしとげることでしか、多様性を学ぶことはできない。
 願わくば、多様性と闘った経験を、あとで振り返り、自分なりの多様性へのコーピングストラテジー(Coping Strategy)をまとめておくこと。これでしか、多様性は学ぶことはできない。
   
 ワンセンテンスで申し上げるならば、
  
 多様性への対処は「経験学習」を通じてしか身につかない
   
 ということになります。
  
 この世には、「Knowing – Doing Gap(知っていても、実際にやれといわれるとできないこと)」というものがございます。
  
 多様性は、その最たるもので、なかなか座学で「Knowing」しても、それが「Doing」につながらない領域なのかな、と思います。
  
 ▼
  
 実は、先だって、僕が監修者・共同ファシリテータとして参画させていただいている「地域課題解決プロジェクト」のアラムナイ(卒業生)が集まる機会がございました。
  
 地域課題解決プロジェクトは、異業種4社の今後をになう次世代若手人材が、北海道・美瑛町に集結し、地元の方々とともに地域の課題解決を行うプロジェクトです。
  
 異業種の4社のメンバーから構成される「混成チーム」は、まさに「多様性そのもの」
 用いる言語も、これまでのキャリアも、思考パターンも異なるメンバーが、ケンケンガクガクと議論をしながら、約6か月かけて、成果を出さなくてはなりません。
 その詳細は下記をご覧下さい。
  
異業種5社のリーダーが集まる研修をいかにデザインするのか!?
http://www.nakahara-lab.net/2014/05/post_2222.html
  
リフレクションをうながす「スパイシーなフィードバック」!? 美瑛町・地域課題解決研修2014が終わった!
http://www.nakahara-lab.net/blog/2014/10/post_2294.html
  
 今年で、このプロジェクトも第三期を迎えます。先だっては、第三期の方々が、それぞれの企画をブラッシュアップする機会でした。
 それが終わった後、第一期・第二期のアラムナイの方々が、第三期の方々とともにネットワーキングを行いました。
  
 第一期、第二期の皆さんとお逢いするのは久しぶりでしたが、大変懐かしい顔ぶれに嬉しい思いがこみ上げました。
 そして、その際に、何人かの卒業生の方から、こんな言葉をかけていただいたことが印象的でした。たとえお世辞であっても嬉しい一瞬でした。
    
「この研修は、やっているときは重要性がわからなかったけれど、そのあと、実は、会社から別の組織に出向したんです。そしたら、多様性どころじゃないんです。この研修で、いろんな人達と出会い、もまれておいてよかったですよ。」
  
「今は、別の会社で、ぜんぜん違う仕事しているんです。この研修受けといてよかったですよ。あのときはそう思わなかったけれど、ほんとうに受けといてよかったと思っています」
   
 何とも嬉しい瞬間でした。
     
 「多様性への対処」は「多様性」の中で学ぶしかない
 「多様性への耐性」は、「多様性」のなかで獲得される
  
 3年間、各社の人事部の方々と走り続けてきてよかったな、と思う一瞬でした。
 同時に、今年の第三期の方々も、どうか、あと数セッション、走り抜けていただきたい思いで一杯です。

 地域課題解決プロジェクトは、あとで「じわじわ」くる研修です(笑)

  ▼

 今日は「多様性への対処は、多様性の中で学ぶしかない」というお話をいたしました。
  
 本来ならば、多様性への対処は、リアル仕事のなかで転びつつ学ぶことの方が、効果は高いのでしょうけれど、さすがに「リアル仕事」のなかで、大きく転び、試行錯誤をすることは、キャリアにリスクを伴います。
  
 研修の中では、どんなに失敗をしても、試行錯誤しても、大丈夫という見方もあります。くどいようですが、第三期の方々には、ぜひ、最後まで走りきって頂き、素晴らしい案を美瑛町の方々にお届けしていただきたいな、と思います。
 
 そして人生はつづく

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