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2016.8.15 06:21/ Jun

組織変革は「ちゃんぽん」である!?

 組織を変えるためには、
 
 「生存不安」をあおるか?
 
 それとも
 
 「理想像」を描くのか?
 
 という、よくある二分法があります。
 今日は、これについて考えてみましょう。
 
 最近では、前者の「生存不安」の方があまり人気がないようですが、古典的理論においてには、「生存不安オラオラ煽り系の組織変革」がメインストリームです。
 
 この場合、組織を変えるためには、まずは
 
「生存不安をオラオラと煽らなければならない」
 
 とします。
 
 その背後には、
 
「人は、圧倒的な危機やリスクを目の前にしてしか、重い腰をあげないものである」
  
 という考え方が透けて見えます。ま、それはそうともいえるけどね(笑)。
  
 しかし、問題は、ここからです。
 この危機やリスクが、「単発の」「短期間のもの」であるのだとしたら、生存不安を脅かされるアプローチでも、何とかうまくいくのですが、これが「中長期につづくもの」だと仮定すると、どうでしょうか?
  
 ここでわたしたちは、
  
 「中長期化する生存不安の煽り」は「マンネリ化」する
  
 という命題を受け入れないわけにはいきません。
  
 要するに、中長期にわたって「オラオラ」言われても、右の耳からはいって左に抜ける。どこ吹く風になってしまう、ということです。
  
 それはあたかも、
  
「今期が、うちの店の最大のヤマだ。今期をとにかく乗り切れ!」と「通年」にわたっている、一年中、連呼し続ける店長・支店長
  
 と同じです。
  
 悲しいことですが、そのセリフは、誰にも届きません。
   
 だって、通年にわたって「骨身を削って乗り切らなければならない状況」というのは、「ヤマ」でも何でもない、「日常」そのものだから。
  
 つまり、中長期化する「生存不安の煽り」には「限界」があるということです。
  
 そこで登場してくるのが、「理想像」を描くとか、「どのようなお店をつくりたいのか」をみなで考える、といったような「青臭い」手法です。
  
 ネガティブな側面に目をむけ、人々の生存不安を煽るのではなく、メンバーのよりよいところ、組織のよりよいところに目を向けると言うことをアクセント的に行うはずです。
  
 こうした手法を駆使しながら、何とか、店や店舗を「やりくり」するのが、通常なのではないでしょうか。そう、マネジメントの原義とは「何とかやりくりする(manage to)」なのですから。
  
 ▼
  
 後者の「理想像」を描く、についてはどうでしょうか。
  
 こちらのアプローチを採用した場合、人々の「生存不安」を徹底的に煽ることはまず一義的には禁忌事項です。
   
 まずは組織のメンバーひとりひとりが、
  
 「どのようにありたいのか?」
 「何を理想だと描くのか?」
  
 について思いを馳せ、それらを対話していくことから、物事をはじめます。
  
 理想像やありたい姿を描くのですから、ごくごく少数の斜に構えた人材以外は、気分が高揚してきます。日常のことは、まず棚においておいて、自分や自分たちのよいところを見つめていこう。そうした作業が、エキサイティングでないわけはありません。
  
 しかし、わたしたちは、ここで下記の命題
  
 物事のポジティブな側面に敢えて注目した場合は、そこには意図しようと、しまいと、必ず「現実とのギャップ」が立ち現れてくる
  
 を思い起こさないわけにはいきません。
  
 要するに、意識的に物事のよいところを取り出せば、いつかは、現実との凹凸と直面せざるをえない時間があらわれるということです。

 なぜならば、
  
 「シャバワールドの現実」は「理想」ではない

 からです。
  
  ▼
  
 それでは、実際の現場では、描かれた理想はどのように実装されるでしょうか。
 人々に掲げられた理想像やありたい姿を、そのまま実行していくフェイズにつながるでしょうか。
  
 多くの場合、答えは「否」です。
  
 描かれた「理想像」や「ありたい姿」が非常に素晴らしいものでればあるほど、それは「今、現状」とは、一般的に「かけ離れたもの」「ギャップのあるもの」になるはずです。
   
 必然的に「理想像」や「ありたい姿」と「現状」との格差に人々の目は行ってしまいます。
  
 そして、そこから先には「切った張ったの修羅場的対話」が待ち受けています。
 ときには「生存不安」を脅かされるパターンもゼロではないとは思います。現実のリアルに目をむけて、お互いに、生存不安をおびやかしかねないような本音の対話が生まれてくる場合があります。

 ポジティブな側面に注目したのに、おかしいね。
 いつのまにか「生存不安」
  
 ▼
  
 今日は「組織を変えるための2つの手法」を敢えて戯画的に描き出してみることから、議論をスタートしました。
  
 しかし、当初のもくろみは、僕の期待通りに頓挫します。
 前者の「生存不安を煽るアプローチ」でも、後者の「理想像を描くアプローチ」でも、純粋に、それだけを遂行することは難しいことがわかってきました。
  
 要するに、

 組織変革は「チャンポン」

 なのです。
   
 それは「単一の理論系」で説明しようとするのは、どうしても、無理が生じてきます。
 この事態は、学者や研究者やスコラリーな志向性のある実践家にとっては「気持ちの悪い」ものでしょうが、実際はそうなので仕方ありません。
  
 現場で起こっていること、現場の人々の状況を見ながら、何とかかんとか「やりくり(Manage)」していき、とにもかくにも前に進むこと。
 手法は、よりよいと信じるものを「ちゃんぽん」する。
  
 それが組織変革の実際なのかな、と思います。
  
 そして人生はつづく

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