NAKAHARA-LAB.net

2005.9.13 10:21/ Jun

韓流eラーニング1日目:公教育の正常化

(※今日から4日間にわたり、「韓国のe-learning / m-learning」について、中原がお伝えします)
 朝KERIS(Korean Eudcational Research Information Service)に向かった。対応をしてくれたのはe-learningのディビジョンの3名。
 KERIS
 http://english.keris.or.kr/main/index.jsp
 彼らいわく:

 —
 現在、韓国ではeラーニングは既に研究開発のステージを終えています。ですが、m-learning、u-learningはまだはじまったばかり。定義すらも曖昧で、僕たちもその作業を進めています(ちなみに彼らはコンセプトビデオをつくった。これがオモシロイので、是非、今度機会があったらお見せしたい)。
 u-learning関係のプロジェクトといえば、2年間の計画で、小学校1校、中学校1校、高校7校の計9校で、タブレットPCやPDAを活用した学習環境構築のプロジェクトをはじめたばかりです。KERISではあくまで、公教育の延長上としてe-learning / u-learning /m-learningをとらえています。
 このプロジェクトは、マイクロソフト、インテル、Korean Telecom等の機材・私財提供のもと、実施されています。KERISはコーディネートをしているのですね。
 国家が主導するm-leanring / u-learningプロジェクトはまだありません。4700万人の人口のうち、3700万人が携帯電話を有する韓国であっても、まだm-learning / u-learningはこれからの課題なのです。
 ちなみに、KERISが対象にしているのは、あくまで公教育(public sector)。民間のMega Studyのような会社の行うサービスに関しては、あまり関知しません。
 ともかく、最大の課題である「公教育の正常化(Justification of the public education)」のため、塾に行けない子どもたちに、様々なサービスを提供しています。そのひとつにCyber Home Learning Service(サイバー家庭学習)があります。
 サイバー家庭学習は、LMSによって管理された学習コースウェアですね。KERISが中央センターとなり、国内10万人の子どもたちがこれを利用しています。
 —

 上記の彼らの話の中で、非常に印象的だったのは、「公教育の正常化(Justification of the public education)」という言葉であった。
 70%の高校生が大学受験に望む、世界一きびしい受験国家である韓国。そこは、もう数十年にわたって「塾に行かなければどうしようもない状況」が生まれており、「公教育に対する不信感」は非常に高い。今回あった多くの人々が、「公教育はcollaspしている」という表現でそれを語っていた。
 ともかく、政府はやっきになって、信用を失ってしまった公教育の復権をねらっているという。KERISは、それを情報通信技術を活用することで実現しようとしているのであろう。
 それにしても、「正常化」とは・・・。ものすごい強い表現に、言葉を失った。
 —
 お昼。KERISの人たちと韓定食を一緒に食べて、そののち、Liztechへ。
 Liztech
 http://www.liztech.co.kr
 ここでは、ケータイで稼働するFLASHコンテンツを簡単につくることのできるオーサリングツールを見せてもらった。
 タブレットPCをもって、マイクロホンに向かってしゃべりながら文字を書く。そこで書いた図と音声がムービーになり、FLASHファイルに変換される。FLASH ver1.0以降が動く端末であれば、動くとのことであった。
 これは意外にいろいろな場所で使えるかも・・・と思った。
 —
 Liztechの人たちと別れ、そののち、ソウル大学へ。ソウル大学では、e-learningコンテンツの開発センターである、Center for teaching and learningを訪問した。
 ソウル大学 Center for teaching and learning
 http://ctl.snu.ac.kr
 ソウル大学には、e-learning関係部署としてUniversity Computing Center(日本でいえば情報基盤センター)の他に、このCenter for teaching and learningがある。前者が情報インフラの構築を担当するのに対して、後者が注力するのはあくまでコンテンツである。
「教授がやりたいといえばコンテンツをつくる」「もし教授がオンラインで単位をだしたいといえば、それに必要な学習カリキュラムづくりの相談にのる」
 Center for teaching and learningでは、この種のコンサルティングサービスをベースとして、VOD、WBTなどの各種のサービスを開発していた。
 ちなみに、大嶋さんによると、この種のコンサルティングサービスをベース/ポリシーとして支援を行っているのは、国立シンガポール大学も全く同じであるそうである。
 前々から口が酸っぱくなるほど、いろいろな場所で繰り返し繰り返し述べているけれど、日本の大学にはこの種のセンターがないことが多い。
 教育とテクノロジーに専門性をもつ人々が集まり、その専門性に基づいて学内のe-learningを推進していく。そのようなリソースを確保しない限り、統計上も、e-learningは推進出来ないことは既に明らかである。
 —
 Center for teaching and learningをあとにしたあとは、ソウル大学の中央図書館に向かった。
ソウル大学では、PDA、t-PC(Tablet PC)、Note PC、Phoneなどからアクセス可能なMobile campusというポータルサイトがあるのだが、中央図書館では、その1部のサービスとして下記を提供している。
 1.本の貸し出し予約
 2.VODサービス
 3.本論文検索
 4.購入図書申し込み
 5.学位論文全文検索
 6.e-journal
 3は便利だろうな、と思った。だって、図書館を回りながら、本を眺めつつ検索ができるから。たとえば、手にとった本の引用文献をみて、それをその場で検索するといったことができるでしょ、これは便利だと思うよ。
 ところで、日本の大学の中で、Mobile deviceからのアクセスが可能なWebサイトはいくつあるのだろうか? 日本の大学図書館だったらどうだろうか。帰ったら、調べてみようかな、と思った。
 —
 朝からずっと英語だったので、疲労困憊しホテルへ。本当は寝たかったけど、カミサンから頼まれた「漢方・コラーゲン顔パック」を探しに、疲れたカラダにムチをうって、THE FACE SHOPというお店へ(嗚呼)。
 夜は、今回の視察のアレンジメントを行ってくれたジョンさん、山内さん、大嶋さん、僕で、ジョンさんおすすめのインド料理屋でお食事(ここは美味しかった)。
 ジョンさんは、アメリカの大学院で会計学のPh.Dを取得し、帰国後、DUNETというe-learning会社の社長さんをしている。本当にとてもよい人だった。
 DUNET
 http://www.dunet.co.kr
 ジョンさんの会社は、1)コンテンツ開発、2)システム開発、3)ASPサービス提供という3つのビジネスモデルから成立しているe-learning companyである。
 ビジネス的には、昨今、2)が縮小し、1)に比重がうつってきているのだという。ただ、1)は収益がどうしても小さくなる傾向があるので、3)を模索しているという。
 ただいま会社は急成長中。先日も10名の新入社員を採用したとのことであった(4名が教育工学、3名がアート、2名がシステム屋、1名がビジネスだったとのこと)。
 彼からは本当にオモシロイ話がたくさん聞けた。特に興味深かったのは、サイバー大学の話。
 ご存じのとおり、韓国ではサイバー大学が17ある。そのうち10はソウルにあり、残りの7は地方にある。ジョンさんのところは、17のうち2つにシステム開発、コンテンツ開発を請け負っているとのことであった。
 2001年からはじまったサイバー大学は、今年2005年が初めて卒業生をだす年度になるという。
 ところで、
 
 「seoul or not seoul」
 という言葉をご存じだろうか。ここ数日で、いろいろな人々から何度か聞いた言葉である。
 受験戦争において、とにかく激しいのはSeoulにある大学らしい。地方においては、場所によってbankruptするところもでてきているようだから、状態は日本と変わらない。要するに、「ソウルにあるか、そうでないか」によって、受験生の競争の程度も違えば、大学の人気も異なるのだ。すべての国民がソウルをめざしてこの国では戦っているのであろう。
 ちなみに、サイバー大学の場合、「サイバー」なのだから、この傾向は当てはまらないのだろうな・・・と思っていたら、サイバー大学でも同じらしい。ソウルにある10はおおむね好調とのことである。地方にある7はきびしいらしい。
 —
 大学受験(Entrance Exam)のための受験サービス最大手である「メガスタディ」についても聞いた。
 メガスタディ
 http://www.megastudy.net/
 メガスタディは、韓国60万の受験生人口のうち、50万人程度が利用しているという、まさに「メガ」学習サイトである。
 各教科の人気講師の講義ビデオをVODで配信している。ちなみにひとつの講義を受けるために必要なお金はおおよそ日本円で6000円程度。これで50万人が最低1個は受けているのだから、ものすごく儲かっていることがわかる。
 メガスタディの成功の秘訣を、ジョンさんに聞いた。
「それはクオリティだ。一流の講師、一流の先生の授業にあそこはこだわっている。ツールやサービス自体はシンプル。それが成功の秘訣です」
 なるほど、納得出来る回答である。
 多くの人々が同時に利用出来るインターネットの世界には、「人気のあるもの」は、ある領域で一つあればいいのである。たとえば、買い物するなら楽天。オークションするならYahooオークション…といった具合に、一度確立されたブランドには、どんどんと人が集まる傾向がある。
 もてるものが、さらにもつようになる
 人気が人気を呼んでいく
 日本でも昔から、代々木ゼミナールとか河合塾ではサテライトを使った授業配信がなされているが、なぜインターネットの世界に進出しようとしないのか、すこし疑問である。
 —
 長い一日が終わった。
 明日も人生は続く。
 それにしても身も心も疲れ果てた・・・。今日はよく眠ることができるだろう。
(文責:中原淳)

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