NAKAHARA-LAB.net

2022.2.28 08:17/ Jun

「子どもに教えるのはいいけど、大の大人に教えるのは苦手なんだよな」は、いったい「なぜ」なのか?

「大人に教えるのは苦手なんですよ。子どもとか、学生なら、できるんですけどね」
   
  ・
  ・
  ・
  
 人材開発や組織開発の仕事をしていると、このような言葉を耳にすることが、年に数回はございます。
「子どもや学生に教えるのはいいけど、大の大人には、あまり教えたくない」という言明で、とくに、現場の先生などに、いらっしゃるような気がします(たとえば、都道府県の教育センターで、大人相手に教えなくてはならなくなった先生など)。
  
 が、ここで興味深いのは、
  
 なぜ、子どもはよくて、大人に教えるのは苦手なのか?
  
 ということです。
  
  ・
  ・
  ・
  
 この背景にあるのは、おそらく下記の3つのことです。
  
1.子どもには「権力」を行使できるけど、大の大人には難しいことが多い
  
2.子どもは「意味」がわからずとも教えることができるが、大の大人は意味がわからなきゃ、動かない
  
3.子どもはそもそも経験が不足していることも多く「白紙」のようなものであるが、大の大人は酸いも甘いも経験してきているので、そのキャンバスは「カラフル」である=教えにくい
  
  ▼
   
 まず1の「子どもには権力を行使できるけど、大の大人には難しいことが多い」とは「教える側」と「教えられる側」の権力勾配です。
  
 教えるられる側が子どもの場合は、
  
 【子ども<教える側】
  
 という風になりますね。年齢も圧倒的に離れてますので。
  
 ところが、教えられる側が大人の場合は、
  
 【教えられる側(大人)=教える側(大人)】
  
 とかになります。ヘタをすれば、年齢や職位によっては
  
 【教えられる側(大人)>教える側(大人)】
  
 というパターンもありえます。つまり、子どもは「権力」をつかって動かすことができるのですが、大の大人には、権力は用いられません。だから、権力を用いて教えることを実行してきたひとは、大人に教えるのが苦手なのではないかと考えられます。
  
  ▼
  
 それでは、つぎに権力を用いることのできない大人の場合は、何の力で動かさなくてはならないのでしょうか。教える側も、たくさんの武器やツールを持っているわけではありません。それは「言葉の力」を用いることです。
  
 学ぶ意義
 学ぶ目的
 学ぶことのメリット
 学ばないことのデメリット
  
 などなど・・・さまざまな言葉を駆使して、大の大人は「動かさなくて」はならないのです。これが、2の「子どもは意味・目的がわからずとも教えることができるが、大の大人は意味・目的がわからなきゃ、動かない」に関係してきます。
   
 大の大人は、意味や目的がわからないものには、棒でつついても、テコをつっこんでも、動きません。
 大の大人を教えるためには、言葉の力がさらに必要になります。
  
  ▼
   
 最後に3の「子どもはそもそも経験が不足していることも多く白紙のようなものであるが、大の大人は酸いも甘いも経験してきているので、そのキャンバスはカラフルである」は、容易におわかりいただけると思います。
  
 子どもは、いわば「タブラ・ラサ(白紙)」の状態で、教える側の前に存在します。だから、一方向的に「染めること」は、比較的容易です。
  
 しかし、大人は、さまざまな「経験」があります。そして、たくさんの「染み」がついており、場合によっては「凹凸」もあります。一方向的に染め上げること、十把一絡げにして対応してしまうと、なかには反発や葛藤を示すひともいます。また、そもそも多様なので、そのひとにあった対応をしなくてはならないのです。
  
 あとですね・・・教える側の「それまでの経験」も問われるんです。たとえば、「おまえは、いま、マネジメントを、教えているけど、そういうオマエさんは、現役のとき、マネジメントうまかったんか?」とすぐに聞かれちゃう。返り血浴びちゃうわけですね。だから、ややこしい。
     
  ・
  ・
  ・
  
 このように、子どもと大人は、教えやすさが異なります。
  
 冒頭の、
  
「大人に教えるのは苦手なんですよ。子どもとか、学生なら、できるんですけどね」
  
 というのは、たいていの場合は、
  
 子どもに「甘えてきた」から
 子どもに教えるのは「意味や目的をはしょり、手が抜ける」から
   
 大人に教えるのは苦手ということになるのだと、わたしは思います(ま、たいていの場合は、そうではないかと思います)。
  
  ▼
   
 今日は、子どもに教えること、大人に教えることの違いについて書いてきました。
 ここまで書いてきて、最後に「ちゃぶ台」をひっくりかえしてしまい、まことに恐縮なのですが、今日の議論は「話のわかりやすさ」のために、敢えて意図的に、「大人」と「子ども」を対照づけて語ってきました。
  
 しかしね・・・星一徹のごとく「ちゃぶ台」をかえして、本当のことをいうと、
  

    
 子どもだって「権力」で動かせない(=権力で動かせていると思っているだけ)
  
 ですし
  
 子どもだって「意味や目的」が感じられないと学べない(=無理矢理従わされているだけ)
  
 ですし
  
 子どもだって十把一絡げにできず、それぞれ、個別個別、多様な存在(=白紙だと思っているだけ)
   
 なのです。
  
大人のそれと比べると、程度の差はありますが、本質的には「大人も子どもも、変わらない」のだとわたしは思います。結局、対象者がどうであれ、教えることには「手を抜けない」んです。
  
 あなたは、教えるときに「権力」に甘えていませんか?
 あなたは、教えるときに「意味や目的」をはしょっていませんか?
 あなたは、教える相手を「十把一絡げ」に扱っていませんか?
  
 嗚呼、心からの自戒をこめて・・・
 そして人生はつづく
     
 ーーー
         
【本日放送!】NHK総合「逆転人生」本日22時に放映されます。中原もすこしだけ解説で登場するかもです。わたしはともかく、富山の製薬会社、前田薬品工業の組織変革事例、大変興味深いです。どうぞご覧ください!
                

              
NHK総合「逆転人生」
https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/trailer.html?i=33265&cid=nol
         
 ーーー
  

  
新刊「M&A後の組織・職場づくり入門」発売中です。AMAZON「企業再生」カテゴリー1位を記録しました(感謝です!)。
  
これまで税務・法律の観点からしか語られなかった「企業合併(M&A)」の問題に対して、ひとと組織(人材開発・組織開発)の観点からアプローチし、シナジーを生み出す可能性を考えます。
  
M&Aという「巻き込まれ事故」に関わってしまった経営企画・人事・現場の管理者・リーダーの皆様にぜひお読み意いただきたい一冊です!
  

購入はこちら!「M&A後の組織・職場づくり入門」
https://amzn.to/3v0P0bE
 
 ーーー
       
武蔵野大学・島田徳子先生、ダイヤモンド社の皆さん(広瀬一輝さん、永田正樹さん)との数年にわたる共同研究と、NPO法人日本ブラインドサッカー協会との連携で、スマホで手軽に受検できる「アンコンシャスバイアス測定テスト」と、内製化研修(プレゼンキット)を開発しました!。この問題は、学術的な背景などは、わたしどもが、テスト結果に基づき動画像(ビデオ)で解説させていただきます。ご利用くださいませ! ご自身の組織にもっともフィットしたアンコンシャスバイアス研修をつくることができます。どうぞご利用くださいませ!
       
ダイヤモンド社が「アンコンシャスバイアス研修」を開発
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000045710.html
    

    
 ーーー
           
新刊「チームワーキング」がオンライン管理職研修になりました。JMAMさんからのリリースです(共同開発をさせていただいた同社の堀尾さん、ありがとうございました。中原は共著者の田中聡さんと監修をつとめさせていただきました)。どうぞご笑覧ください! 
      
リリースしました!「チームワーキング研修版」
https://www.jmam.co.jp/hrm/training/special/teamworking/
     
 書籍「チームワーキング」おかげさまで「重版」を重ねております。応援いただいた皆様に心より感謝いたします。
     
    
 
https://amzn.to/3esCOrW
            
すべてのリーダー、管理職にチームを動かすスキルを!
ニッポンのチームをアップデートせよ!           
       
 ーーー
    
 職場診断ツール&ワークショップ「OD-ATRAS(オーディ・アトラス)」が多くの職場で使われはじめています。サーベイはもとより、それをいかに「フィードバック」するかに焦点をあてたツールです。ワークショップも開発しております。どうぞご笑覧くださいませ!
   

職場診断ツール&ワークショップ「OD-ATRAS」 (パーソル総合研究所・中原の共同開発) 
https://rc.persol-group.co.jp/consulting/survey/service/od-atlas.html
   
  ーーー
       
【好評発売中】1on1のコツをまとめた映像教材を、中原とPHPさんで共同開発しました。上司用、部下用あります。1on1について「同じイメージ」をもつことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス(上司用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
  
経験を成長につなげる1on1(部下用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061   
  
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
  
 ーーー
        
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
       
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
   
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
    
 ーーー 
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約35000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.4.15 08:05/ Jun

「タイパ重視の時代」だからこそ「時代遅れ!?のラーニング」を楽しむ!

2024.4.15 07:29/ Jun

【参加費無料】リーダー育英塾2024募集開始!:特色ある学校づくり+持続可能な学校づくりを進めたいあなたへ!

日本の企業はホワイトになったのか?:あなたの周りには「ノスタルジー温泉」につかって「昔」を懐かしんでいるひとがいませんか?

2024.4.4 08:57/ Jun

日本の企業はホワイトになったのか?:あなたの周りには「ノスタルジー温泉」につかって「昔」を懐かしんでいるひとがいませんか?

わたしは「独裁者」が嫌いだ!しかし「独裁者の見ている光景」を想像することはあきらめない!?:対話的に生きるということ!?

2024.4.3 09:01/ Jun

わたしは「独裁者」が嫌いだ!しかし「独裁者の見ている光景」を想像することはあきらめない!?:対話的に生きるということ!?

学位取得とは「無知の知」からはじめるための証明書である!? : 引き続き知的探究の旅を!

2024.4.2 09:04/ Jun

学位取得とは「無知の知」からはじめるための証明書である!? : 引き続き知的探究の旅を!