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2022.2.8 08:10/ Jun

スタートアップ企業が成長すると、なぜ、社史をつくりたがるのか?

 スタートアップ企業が成長すると、なぜ、社史をつくりたがるのか?
   
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 せんだって、あるIT企業の方とこんな話をしました。
  
 曰く、
  
 IT系のスタートアップ企業が、ある程度成長してくると、なぜか、社史や創業時の理念みたいなものをまとめたがる。それはどうしてなんだろうか。先生はどう思いますか?
  
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 これには「様々な答え」がありうるのだと思ったのですが、わたしがただちに思ったことは、
    
 それは、
  
「私たち」とは何者でありたいのか?
  
 を確認したいからではないか、と思いました。
  
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 社史をつくるということは、その会社にとっての正史(ストーリー)を編むことです。
 それは、それまで、組織メンバーが経験してきたことをリフレクションしながら、それを「集合的記憶」ないしは「組織記憶」として、ドキュメンテーション(記録)することにほかなりません。
   
 まず、このようななかで、個々人の組織メンバーには「経験学習」の機会がうながされます。個々人のメンバーは、ふだんはあまり考えない経験をリフレクションし、それを文字に縮約しなければなりません。しかし、一方で、「縮約された正史」というのは、「政治的産物」でもあります。そこには、組織にとって「伝え続けたいストーリー」と、「うち捨てておきたいストーリー」があるはずです。決して、正史は「中立の産物」ではありません。そこには、経営者、経営人の「これが正しい」という理念や思いが埋め込まれるようになります。
  
 結局、そのような機会を通して、
  
 私たちは、過去、何をしてきたのか?
 私たちは、現在、何者なのか?
 これから、何をしていきたいのか?
  
 を確認しあうことが、社史を編む、という活動に埋め込まれた効果なのかな、と考えます。「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか(D’où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?)」まさに・・・ゴーギャンの絵、そのものですね。
  
  ▼
  
 おそらく、スタートアップが、そこそこ成功してきて、人員数が2桁から3桁に移る頃には、いろいろなことが起こります。
   
 例えば、1)組織がだんだん役割分化していく、2)創業時からいるメンバーと、ある程度、組織が大きくなってから入ったメンバーに「認識の溝」ができはじめる(理念が伝わらない)、3)創業時のようなコミュニケーションがだんだん保てなくなり、お互いの顔と名前が一致しなくなる、4)既存事業の拡大のほかに、様々な新規事業に取り組むようになり、どのように事業成長していくかが見えにくくなる、5)いろいろな労務問題、職場内トラブルなどが頻発してくるようになる、などのことが予想されます。そんなとき、たいてい、経営陣は「何か大切なことが、末端のメンバーにまで、伝わっていない」のではないか、と感じて、焦る。
  
 そのようななか、彼らが確認したいのは、
  
 私たちは、過去、何をしてきたのか?
 私たちは、現在、何者なのか?
 これから、何をしていきたいのか?
   
 なのかな、と思うのです。スタートアップが社史を編みたがる理由は、そんなこともあるのかな、と思いましたが、いかがでしょうか。ま、これもひとつの仮説。他にもいろんな理由があるとは思いますが。
    
 そして人生はつづく
   
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中原ゼミ5期生を迎えることができました! 創業から少ししか時間がたっていないのに、もう「5期」ってのが、個人的には驚きです。せんだっては、人材開発・組織開発の基礎を学ぶミニ講義をいたしました。彼らと ともに学べることを楽しみにしております。


                        
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新刊「チームワーキング」がオンライン管理職研修になりました。JMAMさんからのリリースです(共同開発をさせていただいた同社の堀尾さん、ありがとうございました。中原は共著者の田中聡さんと監修をつとめさせていただきました)。どうぞご笑覧ください! 
      
リリースしました!「チームワーキング研修版」
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 書籍「チームワーキング」おかげさまで「重版」を重ねております。応援いただいた皆様に心より感謝いたします。
     
    
 
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ニッポンのチームをアップデートせよ!           
       
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
       
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
   
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
    
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