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2021.6.21 08:11/ Jun

DX人材育成とは、チョロンと「デジタルフレーバーの研修」を数時間受講することなのか?

 DX人材(ディーエックス人材:デジタル人材)とは、チョロンと「デジタルフレーバーの研修」を数時間受講したひとのことなのか?
  
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 人材開発の世界には「流行」があります。
 ちょっと前ならば、キャリア自律型人材、グローバル人材・・・。その時勢にあった「ほにゃらら人材」が捏造され、喧伝され、右に左に、ああ、大忙しとなります。
  
 ここ1年ー2年、流行しているのが「DX人材(ディーエックス人材:デジタル人材)」です。言うまでなく、「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」のこと。
      
 DXには、さまざまな定義がありますが、「企業がテクノロジーを利用して、事業・組織を根本から変革させ、成果を創出すること」という意味で、用いられることが多いようなので、ここでは、そうした意味で用いましょう。
  
 しかし、このDX人材・・・といいましょうか、DX人材の「育成」に関しては、僕は、少し憂慮する事態が生まれているな、と感じます。
    
 端的に申しますと、
  
 DX人材とは、どのような人材なのか(どのような経験をつみ、何ができるひとなのか?
  
 という各組織においての定義がなされずに、その「育成」だけが進行している事例をよく耳にするからです。 
  
 そうしたゆるい組織では、たいてい、
    
「DX人材」の育成とは、研修業者のもってくる「デジタルフレーバーのする研修」を受講すること
    
 とイコールになります。
    
 データほにゃらら研修やら、AI基礎研修やら、IT研修やら、WEB技術研修やら、それっぽい「デジタルフレーバーのする研修」がパッケージ化され、提供されます。
  
 もちろん、学ばないよりも、学ぶほうが、いいという考え方もあります。
   
 しかし、
  
 「デジタルフレーバーのする研修」を受講することで、いったい、何を、どのように実践できるひとになって欲しいのでしょうか?
      
「デジタルフレーバーのする研修」をいくら積み重ねてみても、その先に何をめざしているのかが、いっこうに見えません。DX人材の育成とは、それでいいのでしょうか?
  
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 さらに申し上げますと、もっとも懸念しているのは、社会には、
  
 ひとが余っている業種・業態に勤務している方が、DX研修をチョロンと受講すれば、情報・通信などの人が足りない業種に「転職できる」YO!
  
 という「転職の煽り文句」が広がっていることです。
   
 就職に困っている人に、高額な「デジタルフレーバーのする研修」を売り込み、転職を煽る事例
  
 も少なくないと聞きます。
  
 あのー、それ、本当ですか?
    
 生き馬の目を抜くようなスピードで進化する情報・通信業を、ちょろんと「デジタルフレーバーのする研修」を数時間受講するだけで、サバイブできるのでしょうか? 
    
 わたしは懐疑的です。
    
 こんなことが起こらなきゃいいな、と思うドサイアクケースは、
  
 さして就職につながらない「デジタルフレーバーのする研修」を受講させられ、対価を要求されるが、転職は成功せず、転職難民に陥るケース
   
 です。
   
 ▼
   
 それでは、人材開発のセオリーから考えれば、DX人材とは、どのような育成が可能でしょうか。それは「知識」と「経験」と「ピープル」です。すべては、これが基礎でしょう。
  
 DX人材を育成するためには、
    
【知識】
 1.関与する業務に「極めて極めて」近い知識の習得
 (転移をなるべく起こりやすいようにする)
  
【経験】 
 2.将来従事する業務に「極めて近い業務」への従事と経験学習の蓄積
 (業務は経験から学ぶのです)
  
【ピープル】 
 3.1をもとに2を実践していくなかでなされる適切かつ即時のフィードバック・メンタリング
  
 が、最低でも必要になります。
(これは机上の空論です。正確にカリキュラムを決めるためには、どういう知識・スキルをもつ人材なのか、従事する業務が何かを診断する必要があります)
   
 そして、何より、自社なりの定義
  
 DX人材とは、どのような経験・知識をつんだひとで、どのような仕事に従事し、何をなしとげるひとなのか?
   
 をしていくことが極めて重要です。
  
 そして、その実践、取り組みには、それなりの時間と労力がかかると思います。 
 
 端的に申し上げますと、
  
「デジタルフレーバーのする研修」を数時間受講するだけで、DX人材になれるなら、誰も苦労はしない
    
 のです。
    
 ▼
  
 今日はDX人材について私見を書かせていただきました。
 そういえば、グローバル人材のときは、グローバル人材の定義がきちんとなされず「英語の研修」が、はちゃめちゃ売られました。
    
 で、うかがわせていただきますが、
      
 ニッポンのビジネスパーソンは、英語がうまくなりましたか?
 ニッポンのビジネスパーソンは、グローバルで大活躍してますか?
    
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あなたの周囲には「デジタルフレーバーのする研修」を数時間受講しただけのDX人材育成があふれていませんか?
   
 そりゃ、いつか来た道だ、と思うよ。
 そして人生はつづく
    
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http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
   
ピアトラストお問い合わせ
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