NAKAHARA-LAB.net

2021.5.19 08:01/ Jun

「ハートウォーミングな教育現場」に「経営」は馴染まない!?

 教育は「ハートウォーミング」で、経営は「冷たい」?
  
  ・
  ・
  ・
  
 かなり前のことになりますが、教育関係者(初等中等教育の関係者の方々)の方々とお話をしていて、非常に印象深い思いをしました。
 
 そのときは「学校をいかに経営するか」ということが話題の中心でした。僕には、その話題そのものよりも、教育関係者の方々の「経営」に対して持っているイメージが、興味深く感じられたのです。
  
 細かいことをはしょって端的に申し上げますと、教育関係者の方々の「教育という営み」に対するイメージは下記のようなものだと類推されました(あくまで類推)。
  
 教育とは、
  
 1.ハートウォーミング(心温まるイメージ)
 2.感情的な営み(感情で動く)
 3.お金とは無縁
 4.相手本位(子ども主体)
 5. やりとり中心
  
 なものであーる(笑)。
   
対して「経営という営み」に関しては、
    
 1. 冷徹(つめたい)
 2. 論理的な営み(感情で動く)
 3. 守銭奴(金まみれ)
 4. 経営者の思うまま
 5. 命令すればただちに動く
     
 のようなイメージをお持ちであったかのように思います。
  
 くどいようですが、これらはあくまで類推。ただ、言葉のはしばしから「ほとばしる」ものから類推すると(笑)、おそらく、その場にいた多くの方々は、このイメージをお感じになられていたのではないかと思います。
    
 さらに深掘りして類推すると、おそらく
    
 教育と経営とは「対立」するものであり「両極」に存在するもの
   
 という認識がおありであった気がします。たぶんね。
    
 もちろん、大の大人が、ある概念に対してどんなイメージをもとうが、この国では自由です。その是非はさておき、非常に興味深いなと思いました。
  
  ▼
  
 なぜなら、僕は、こうした考えをもっていないのです。教育も経営もあまり「二項対立」に考えていない。
    
 教育と経営は「対立」するものというよりも、むしろ、前者「教育」の実現のために、後者「経営」があるのではないか、と考えます。
    
 すなわち「ハートウォーミング!?な教育」を安定的に社会に供給するために、超絶泥臭い「経営(やりくり)」が存在するのだろう、と考えているところがあります。
   
 僕の「教育」に関するイメージは、下記のようなものです。敢えてバランスをとるとすると、下記のようなものになるかと思うのです。
    
1.「ハートウォーミングな出来事」もあるが、入試・選抜が含まれる以上、かなり「冷徹な営み」でもある 
    
2.「感情的な営み」とは言い切れず、「学習指導要領などのルール(論理)」などにガッツリに従う部分もある。決められたなかで動く側面もある。
    
3.お金とは無縁ではなく、年間10兆円のお金が、めっこりがっつり投入されている
    
4.「子ども主体」とは必ずしも言い切れず、社会を成り立たさせるため子どもに「学び」を強いる部分もある
    
5. 子どもとのあいだで「やりとり」が成立している場合もあるが、「バリバリ知識注入・一斉講義」も多数存在する
    
 いかがでしょうか(笑)
  
 対して「経営」には、僕は、下記のイメージをもっています。
   
1. 経営は「冷徹」ときもあるが「はちゃめちゃ泥臭い」。経営とは「にっちもさっちもいかない状況」を「やりくり」することである。
  
2. 経営は「数字」で動き「論理的」なときもあるが、実際のビジネスは「感情」で動くことも、めちゃ多い(ビジョン・エンゲージメントなんて、感情バリバリワードが流行していることからもおわかりかと)
  
3. 守銭奴ビジネスパーソンもいる。しかし札束で動かないものもたくさんある。ちなみに、少なくとも10兆円を年間儲ける企業は、ほとんどない。
  
4. 「経営者の思うまま」のオーナー企業もある。しかし多くの経営者は、自分の思うように組織が動かず、悩んでいる
  
5.経営の現場では、従業員は「命令すればただちに動く」のではない。大人は納得しないことは「やらないか」か「やりすごすか」か「やったことにする」だけである。
      
(ちなみに、僕個人の経営の定義は「物事がはちゃめちゃ早く変化していくなかで、なんとか、かんとか、やりくりして、組織・事業を持続可能にしていく泥臭い営み」ですね)
  
 別に、教育にネガティブなイメージをもつわけでも、経営にポジティブなイメージをもつわけでもありません。両者のバランスを敢えてとると、こうなるのかな、と思います。
  
 むしろ申し上げたいのは、どちらの営みも、「ロマンチック」に色眼鏡をつけて語るのではなく「ファクト」に基づいて観察してみると、まったく違う営みに見えてくるのではないか、ということです。
  
 そのうえで、冒頭の「学校経営」という観点でもうしますと、僕は、教育と経営を「両極のもの」と考えるよりも、「前者の教育という営み」を「なりたたせるため」にこそ「やりくり(経営)」があるのではないか、と考えているのですが、いかがでしょうか?
  
 それぞれにもつ色眼鏡をはずして、教育関係者の方々と経営関係者の方々と「出会える未来」を想像したりします。
  
 ▼
  
 今日は「教育」と「経営」ということについて考えてみました。
  
 あなたは「教育」にどんなイメージをお持ちでしょうか?
  
 あなたの目に「経営」はどのようにうつっておられますか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
       
新刊「働くみんなの必修講義 転職学」好評発売中です!どうかご高覧くださいませ! ひとが会社を辞めなくなるのはなぜか(それを防止するためにはどうすればいいのか)?、どのような転職活動を行えば、納得のいく転職が可能になるのか、そして、どのように新たな組織に自ら適応するのか。転職にまつわる、これらの「問い」に対して、1万2000人の大調査を通して答えをだしました。パーソル総合研究所、パーソルキャリア、中原の共同研究成果です。ご高覧くださいませ!
   

    
  ーーー
   
【事業部人事の大調査】への回答ご協力、どうぞよろしくお願いいたします! 「事業」に貢献する人事を元気にしたい、という思いから、調査を行わせていただいております。事業にまつわる人事を行っている方、ぜひ、回答をご検討くださいませ。明るく楽しい調査報告、他社の事業部人事とつながる会へにご招待させていただきます!
  
【事業部人事の大調査 調査へのご回答はこちら!】  
https://jinzai.diamond.ne.jp/survey/
           
  ーーー
   
新刊「チームワーキング」発売初日・重版決まりました! AMAZON「マネジメント・人材管理」カテゴリー第1位! 手にとってくださった皆様、お読みいただいた皆様に、心より感謝いたします。
   
 
https://amzn.to/3esCOrW
   
すべてのひとびとに、チームを動かすスキルを! これがこの書籍のメインメッセージです。チームを動かす新たなアイデアとして「チームワーク」ではなく、「チームワーキング」を提唱しています。データとビジネスケースから、チームを動かすためのスキルを学び取ることができるようになっています。どうぞご高覧くださいませ!
 
ニッポンのチームをアップデートせよ!
  

  
  ーーー
     
拙著「経営学習論」の増補改訂版が、東京大学出版会より刊行されました。新たに「リーダーシップ開発」の章を追加し、カバーの装いも変わっています。人材開発の基礎的な理論を体系的に学べる一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
      

    

      
  ーーー
  
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
  

新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
  
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)

   
  ーーー
     
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
   
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
   
  ーーー
  
ラーニングエージェンシーさんと中原研究室の共同研究により開発した「女性の視点で見直す人材育成:トランジションサポートプログラム」のご提供がはじまっています。ライフステージに応じて、役割移行を支援する、きめ細かい研修となっています。共同研究の成果は書籍「女性の視点で見直す人材育成」としても刊行されています。
  
女性の視点で見直す研修 トランジション サポート プログラム
https://www.learningagency.co.jp/service/transition/
 

 
 ーーー
    
。AMAZONの各カテゴリーで1位記録!(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。
長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
また残業学プロジェクトのスピンアウトツールである「OD-ATRAS」についても、ご紹介しています。職場の見える化をすすめ、現場マネジャーが職場で対話を生み出すためのTipsやツールが満載です。ご笑覧ください。
    

対話とフィードバックを促進するサーベイを用いたソリューション「OD-ATLAS」の詳細はこちら
https://rc.persol-group.co.jp/learning/od-atlas/
   
  ーーー
   
「研修開発ラボ」(ダイヤモンド社)が、フルオンライン化して大幅リニューアルしました。人材開発の「基礎の原理」を学ぶことのできるトレーニングプログラムです。どうぞお越しくださいませ!
    
研修開発ラボ 特別講座「人材育成の原理・原則を学ぶ」
https://jinzai.diamond.ne.jp/seminar/SEMINAR0495/
  
 ーーー
   

     
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
    

     
 ーーー
      
拙著「職場学習論」(東京大学出版会)のカバー・装いが10年ぶりに変わりました(内容は変わっていませんのであしからず!)。ひとは、職場でどのようにして学ぶのか、というテーマを考察しています。どうぞご高欄くださいませ!
    

    

      
 ーーー
    
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
      
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。利用人数20名までは「無料」だそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
    
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
   
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
  
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
   
 ーーー 
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約32000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

 

ブログ一覧に戻る

最新の記事

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.24 08:22/ Jun

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.17 23:54/ Jun

給特法、および、それにまつわる中教審審議に対する私見(中原淳)

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.17 08:17/ Jun

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.15 08:05/ Jun

「タイパ重視の時代」だからこそ「時代遅れ!?のラーニング」を楽しむ!

2024.4.15 07:29/ Jun

【参加費無料】リーダー育英塾2024募集開始!:特色ある学校づくり+持続可能な学校づくりを進めたいあなたへ!