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2021.4.27 07:56/ Jun

「現場に知見をお届けできる研究」をつくるコツ?:「その仮説が、現場のどんな光景を表現しているのか、言ってみて」テスト!?

 「その仮説が、現場のどんな光景を表現しているのか、言ってみて」
     
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 科学は「抽象的思考」の産物です。
    
 研究者は、シャバのさまざまな「現象」を観察し、その現象のなかに存在する共通点をまとめあげ、「抽象的な概念」をつくります。「抽象的な概念」が複数得られれば、そこを関連付けます。関連付けられた概念同士には、ストーリー(意味づけ)が生まれます。それが「仮説」であり、それが実証されれば、発見事実ということになります。
  
 抽象的な原理・原則(発見事実)がいったん得られれば、とてもパワフルです。他の現象の説明原理に用いることができますし、さまざまな物事を予測・コントロールできます。だからこそ、科学は「力をもつ」とされてきましたし、社会のなかで一定の評価を得てきました。
  
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 しかし科学の「抽象的思考」が行きすぎると、現象とは遠く離れたところで、「抽象的な記号操作」だけを行うようになります。 これは分野にもよるのですが、実践現場をもつドロドロの分野であっても、そうなってしまうのです。
  
 「概念」だけで思考するようになります。
 「概念」をとっかえひっかえ、流行にまかせて、操作するようになります。
  
 具体的には、概念Xと概念Yの関係を研究してあきたら、概念Yの箇所に概念Zをいれて研究をするようになります。ともすれば、「具体的なシャバの現象」と「概念」の関係が見落とされ、地に足のついた思考が行えなくなります。
  
 他の方は知りません。が、僕は、そういう研究が「嫌い」です。
 大学院生の指導においては、そういう研究スタイルをなるべく避けるように指導しているつもりです。
  
 僕が、よく大学院生に申し上げるのは、この言葉です。
   
「その仮説が、現場のどんな光景を表現しているのか、言ってみて」
   
「その仮説って、誰が、誰に対して、どうすることなのか、5W1Hで言ってみて」
   
「その仮説が、現場のどんなお困り事とつながっているのか、うちのオカンでもわかるように言ってみて」
  
 例えば、今、仮に下記のような仮説があるとします(本当の研究仮説ではありません)。
  

H1:研修のプロアクティブな参加は、研修参加者の職場内メンバーへのアドバイス行動と交互作用を有し、研修内容の職場内転移を促進する

  
 抽象的な概念が並ぶ仮説です。この仮説がよいかどうかは別にして(1秒でつくった妄想仮説です)、僕が自分の指導している大学院生の方々に伺いたいのは、この仮説が、どんな「現場の光景」とつながっているのかを「きちん」と意識して、研究しているかどうかです。
  
 研修のプロアクティブな参加って、誰が、何をすること?
 研修参加者の職場内メンバーのアドバイス行動って、誰が、どんなアドバイスをすること?
 研修内容の職場内転移って、どういう光景?
  
 もちろん「妄想」でいいのです。
 そして、その妄想に、正しいも、正しくもないのです。
 具体的な現象や光景を「意識」して研究しているかどうかが重要なのです。
  
 そして、研究者のなかには、実践現場をもつ学問を実践しているのにもかかわらず、そういう「光景」がまったく浮かばないひともいます。「先行研究で概念Xが取り扱われていたけれど、最近流行っている概念Yを、ここにあてはめてみました的」な研究をしている場合に、それが生まれやすい傾向があります。
  
 最近は、多くのひとびとが「現場に還元できる研究がしたい」とおっしゃいます。素晴らしいことです。しかし、おそらく、先の態度では、おそらく「現場に還元できる研究」はできません。
  
 だって、自分が検証している「仮説」で表現している
 現場の「光景」が脳裏に浮かばないのですから・・・。

  
 自分で「イメージ」できないものを、他人に「還元」できるわけがないでしょ。
  
  ▼
  
 今日は朝っぱらからややこしいことを書きました。
  
 科学は、とてもパワフルです。
 そして、僕は、科学が好きです。
  
 しかし、一方で、そこに潜む落とし穴や限界も、よく知っています。
  
 これまで研究室からは、修士号取得者を20名程度、博士号取得者を8名輩出してきました。少なくとも自分の指導する大学院生には、「抽象的な世界」と「具体的な世界」を行き来できるひとになって欲しいと願っています。
  
 そして人生はつづく
   
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
      
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。利用人数20名までは「無料」だそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
    
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
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http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
   
ピアトラストお問い合わせ
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ピアトラストの効果まとめページ
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