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2020.10.26 08:00/ Jun

よき人材開発・組織開発は「サイエンス(科学)」と「アート(技芸)」とともにある!

 先週の土曜日は、大学院の授業で、はじめての対面授業でした。
   
 秋学期の、僕と藤澤先生の授業「人材開発・組織開発論II」では、
  
 1. 受講生がチームになって
 2. 自らが貢献したい「従業員規模100名以下くらいのリアルクライアント」をさがし
 3. クライアントの方々と協働しながら、
 4. クライアントの抱える人材・組織課題を調査し
 5. クライアントに対して、人材開発・組織開発を「実行」し
 6. 評価する
  
 といった、はちゃめちゃ「実践的な授業」をしています。
  
 要するに、この授業で、学生の皆さんは、
  
 1. 人材開発・組織開発のプロセスコンサルテーションの要諦と
 2. コンサルタントとクライアントとのコラボレーションの仕方を
 3. 生身で行う「コンサルティング」、リアルクライアントとの邂逅を通して
  
 学ぶことができます。
   
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 春学期の授業のなかで、学生の皆さんは、人材開発・組織開発の理論、概念を学んできました。
  
 秋学期の授業では、
  
 頭では、わかっていた「理論」や「概念」が
  
 実際に現場では、どのように動き、現象として発露するのか
   
 を学びます。
   
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 秋学期の授業で、学生のみなさんが、お選びになった5つのリアルクライアントの企業事例は、どれも生々しく、非常に興味深い事例でした。そこには、そこで生きている人々の息吹や、抱えている課題などが想像できました。本当にお疲れ様でした。
  
 時間的余裕も十分とはいえないなかで行うコンサルティングですので、なかなか大変だとは思うのですが、ぜひ、5つの現場に、何らかの貢献価値を「お届け」していただきたいと思います。
   
 学生のみなさんの健闘が、とても楽しみです。
 大丈夫。
 必ず、できる。

  
 
(写真を撮影する一瞬直前まで、さらに広いソーシャルディスタンスを確保しています。なお、キャンパスに入る際には体温測定、消毒、教室内では、ソーシャルディスタンスの確保、マスク等着用などの、必要な感染対策をすべて行なっております)
    
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 日々、新・大学院コースの「授業のスライド」「授業教材」をつくりながら、最近、とみに考えることがあります。
 僕は、僕自身の一連の授業を通して「どのような人材を育成したいのか」についてです。
     
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 僕の考える「理想の授業」とは、端的に申し上げると、
   
「アカデミックプラクティショナーの養成」
  
 ということになるのかな、思います。
  
 つまり、僕が、一連の授業でめざしたいのは
  
1. アカデミックの理論や知識、科学的手続きに従いながら取得したデータを用いつつも、
  
2. 現場の人々と、自分の身体をもって、関わり合いながら、プラクティス(実践)し続ける存在
  
 なのかなと思うのです。
  
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 1の「アカデミック」とは、別の言葉でいえば「サイエンス(science)」です。
 2の「プラクティス」とは、さしずめ「アート(art:技芸)」でしょう。
 ここでアートとは「絵画」とか「美術」という意味ではありません。というよりは、「日々、現在進行形で変わり続ける現場のなかで、さまざまな物事とつながり、かかわることで、自分を変えて、他者を変えていく技芸」のことをいいます。それを、仮に「アート(技芸)」と呼びましょう。
   
「アート」の発達を促すのは、この授業を見るように「自らの身体を投企しながら、経験から学ぶ学習」です。しかし、それだけでは不足があります。それは、いわゆる人文社会科学の様々な見識を学ぶこと。とりわけ、「人間をどう見立てるのか?」「コミュニケーションとは何か?」といった哲学的な知識をしっかりと基盤にしながら、経験から学ぶことが求められます。
   
 端的に申し上げれば、僕自身は、
    
 これからの人材開発・組織開発を牽引するのは、
  
「サイエンス(科学)」と「アート(技芸)」の融合した人材なのではないか
  
 という「猛烈な妄想」を持っているのだと思います。
  
  ▼
  
 一般によく知られているように、現代社会を支配しているのは「サイエンス」です。
  
 シャバの世界では、
   
「科学的ではない」という誹りは「信用ならない」
「エビデンスがない」という非難は「聞くに値しない」
  
 というかたちで意味付けられています。この意味で、現代は「サイエンスが信じられている時代」といってもいい。
  
 別の言葉でいえば「サイエンス」の方は、ことさら重要視しなくても、「誰もが重要だ」と言ってくれるし、その重要性は、いささかも、誰しも疑問を抱かないのだと思います。僕自身も、自分の研究や探求のほとんどは、実証主義的なアプローチがほとんどです。ですので、これが重要なことはわかっています。
  
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 しかし、ここで、反面、見落とされているのが「アート(技芸)」の必要性です。
 現場に居合わせ、現場の息吹を感じ、現場とかかわり、現場に自らの身体を投企し、獲得される技芸。
 人文社会科学が明らかにしてきた「人間像」「コミュニケーション」に基づく技芸が、今、軽視されているような気がします。
  
 一般に、サイエンスは、あまたある現象の中から、厳密な手続きによって、その内部に隠されている
    
「XがおこればYが起こる」
  
 という「因果律」を明らかにします。
  
 しかし、このサイエンスによって明らかになった、これらの「因果律」という「武器」を、現場で活かそうとするとき、問題が起こります。
「現場の人間は、どのような社会的状況にあるのか」「現場の人々は、どういうものを願い、何を感じているのか」という「人間に対する見立て」と、その「見立て」に基づき「あなたが、いかに彼らに働きかけうるのか」ということが、決定的に重要になってくるからです。この見立てを間違ってしまうと、現場にはフィットしない「因果律」を現場で活かそうとすることになってしまう。
  
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 くどいようですが、サイエンスが明らかにする
  
「Aが起こればBが起こる」
   
「Cが起こればDが起こる」
  
 の「因果律」はたしかに貴重です。
  
 しかしながら、「因果律」という名の武器をいくらもっていても、ひとは、現場でどの因果律を、誰に対して、どのように適応するのか、を「決断」しなければなりません。
  
 因果律は、決して「万能」ではありません。
 それが、現場のひとびとの文化的特性や社会的背景にあった場合には、奏功する場合もあるし、そうでない場合もある。そのためには、「現場」や「現場の人間」を見抜き、見立てる「目利き」が必要になります。これが「技芸」だと思うのですが、いかがでしょうか。
  
 よきサイエンスは、アートとともにある
 よきアートは、サイエンスとともにある
   
 そして、
  
 よき人材開発・組織開発は、サイエンスとアートにある
  
 と言えるのではないかと思います。
  
 かつて、哲学者・中村雄次郎は、今から40年以上前、「臨床の知」という概念を提示しました。わたしがこの本を読んだのは、学部生の頃、21歳の頃です。
  
 中村は、同書のなかで「経験のなかでより能動的なもの、つまりとくに意思的で、決断や選択をともなうところのものが実践」と喝破しています。そして、そのためには、「臨床の知」が必要なのだと。中村が説いた「臨床の知」とは「個別の現実にじっくりとかかわり、そこで生きる人々とのリアルな邂逅を通して、ひとびとがつむぐ生を読み取っていく知」なのかな、と思います。わたしのいう「技芸」とは、そういう哲学的基盤に近いな、と思います。
    
 ▼
  
 今日は週のどあたまから、ややこしい話をしました。
  
 言いたかったことは、
  
 人材開発・組織開発とは「サイエンス」でもあり「アート」でもある
  
 ということです。
  
 将来の人材開発・組織開発を牽引していく存在が、立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発専攻「通称:ひとづくり・組織づくりの大学院」から巣立っていくことを、心より願っています。

 なお、この日の対面授業(スクーリング)については、スタッフの加藤さん、井上さん、広報井上さん、藤澤先生らの綿密なサポート、そして、大学院生の皆さんのご協力により実現いたしました。スタッフの皆様、学生の皆さん、に心より御礼を申し上げます。
  
 そして人生はつづく
  
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【お知らせ】
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発専攻「通称:ひとづくり・組織づくりの大学院」では、2期生を募集する大学院入試を2月に控えています。 あなたも、この大学院で、わたしたちと一緒に学びませんか? 授業は金曜日夜、土曜日。フルオンライン(スクーリング数回あり)で、修士(経営学)を取得できます。下記をどうぞご覧くださいませ!
   
出願資格、入試日程の公開について
https://ldc.rikkyo.ac.jp/news/2020/0810/
  
専任教員が選出 リーダーシップ開発コース関連領域を学ぶための図書16選
https://ldc.rikkyo.ac.jp/news/2020/20200912/
    
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今回の大学院授業の対面授業にかける事務局のご苦労は大変なものでした。加藤さん、藤澤先生、井上さんらがご尽力し、教室環境を整備いただきました。心より感謝です。
    
大学院でははじめてのハイフレックス授業でした。立教型ハイフレックス授業システム、名付けて「KAKERUモデル」です(作者・加藤さんの名前・・・僕は詳しいことはよくわからない)。オンライン側には1名の大学院生がいらっしゃいました。クオリティは今後の検証が必要ですが、なんら問題なく授業ができました。KAKERUシステムに感謝です。
    

    
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