NAKAHARA-LAB.net

2020.6.5 11:08/ Jun

「仲間からの信頼」が「わたしの価値」になる!? : 職場のメンバーという「鏡」を通じて「セルフアウェネス」を高める仕組みをつくる!? : 一般社団法人ピアトラストとの共同研究開始!

「先生、わたしは会社に入って、一度も褒められたことはありません。「何も言われないのは褒められてる証拠だ!」と直属上司は言うので、そんなものなのかな、と思って仕事をしています。仕事はやって当たり前。できて当たり前。まぁ、社会人なんで、そうなんでしょうけど。上司には、いつも、詰められてばかりです。いやー、褒められたことなんて、一度もないですよ」
   
  ・
  ・
  ・
  
 仕事柄、僕は、さまざまな職場の社員の方々にお話を伺う機会がありますが、年に数回、これに類した発話をうかがう機会があります。
  
「褒められない」
「詰められてばかり」
「認められない」
    
 過剰に一般化するのは危険ですが、
    
 この国、ニッポンの職場には、褒め合うこと、ないしは、ポジティブなフィードバックを交わすことが、不足しているのではないか?
  
 と思ってしまうことがあります。

 もっと言うと
   
 ニッポンの職場には「ねぎらいの言葉が不足」している
    
 のかもしれません。
  
  ▼
   
 もうひとつ不足しているな、と思うのは、
   
 そのひとのもっている「得意な部分」や「強み」を把握してあげて、それを伸ばしていこうという発想
  
 です。
  
 そうではなく

 ダメなところだけを探して、詰める(泣)。
  
 こういう指導が横行しているような気がします。
 
  ・
  ・
  ・

 僕がこうしたことに関心をもちはじめたのは、2018年、大学に移籍後、学部生と接するようになってからのことです。
  
 一般に、最近の大学生は「フィードバックを欲する」とよく言われます。それは、わたしの勤めている学部でも、あてはまるのかな、と思います。
  
 しかし、よくよく子細に観察すると、
 
 彼らは、フィードバックを通して、自分や自分の成果物の「課題」を見つめ直したいだけではないことが、ただちにわかります。
  
 むしろ、
  
 若いひとびとは、時に、「自分の強み」が「わかっていない」ないしは「把握して切れていない」ことがある。
  
 そんなときに、ポジティブフィードバックで、彼らに「自分の強み」を認識(セルフアウェアネス)させてあげれば、彼らは、ものすごく自信をもちます。
  
 これ、本当に、「ツボ」にはまると、ものすごく学生が変わります。 
 この2年間で、そういう光景を何度も見てきました。
    
  ・
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 しかし、これは「若い人だけに当てはまること」なのでしょうか。
 人生100年時代といわれ、70歳あたりまで働かざるをえない状況が生まれうるときに、この問題を若い人の問題だけにとどめておくことは、すこしもったいない気もいたします。
  
 これを敷衍するならば、今後の人材開発においては、
  
「得意な部分」や「強み」を認識する(セルフアウェアネス)のきっかけを提供してあげて、それを伸ばしていこうという発想で、ひとに接することが重要
    
 なのかなと思います。
   
 キーワードは
  
 他者を「鏡」とした「セルフアウェアネス」の実現
  
 です。
  
  ▼
      
 前置きが長くなりました。
    
 このたび、一般社団法人ピアトラストさんと中原は、
  
 職場の仲間からの賞賛・信頼(ピアトラスト)を通じたセルフアウェアネス(自己認識)の向上
  
 に関する共同研究をさせていただくことになりました。この企画、3月頃から、プロジェクトメンバーの皆さんと温めに温めてきた企画で、ようやく、発表にこぎ着けることができて、とても嬉しく思います。
   
 
   
一般社団法人ピアトラスト
https://www.peer-trust.com/
  
 この研究では、
  
 1)職場のメンバーから受けた賞賛・信頼を
 2)従業員の自己理解と自己成長につなげていくシステムの効果性を評価し
 3)協力企業を募り、それが組織の強化にどのように寄与していくのか
 4)そのための支援ツールとしては何が必要なのか
  
 を検討していき、具体的に、何らかのツールを開発することをめざしていこうと思います。
   
 ひとは、誰しも、自分のことはなかなかわかりません。
 しかし、一方で他者は、あなたをよく見ています。
 あなたのナイスプレーは、他の職場メンバーはよく観察しているものです。
   
 よって、
 
 1)自分という存在のセルフアウェアネスを高めるために
 2)職場メンバーという「鏡」を用いて、
 3)フィードバックを受ける仕組みができれば、
 4)さらなる人材開発のツールになりえるのだと僕は思います。
    
 このプロジェクトでは、これを目指します。
   
 さらには、このデータは、ブロックチェーン技術を用いて、志をともにする会社を中心に社内外に公開していくことをめざしています。これに関して、アプリの利用が50社に限り、無料でスタートするようです。詳細は下記をご覧くださいませ。もしご興味、関心があうようでしたら、ぜひ!
  
仲間からの信頼が、わたしの価値になる ― 相互称賛アプリ『Peer-Trust』提供開始 : 2020年8月末まで先着50社を対象に無料スタートキャンペーンを実施
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000059483.html
  
一般社団法人ピアトラストは、企業向けの相互称賛アプリ『Peer-Trust』を提供開始(PDF資料あり)
https://bit.ly/3dDxe30
  
Ginco、相互称賛アプリ『Peer-Trust』の開発に協力。ブロックチェーンを用いたHR情報基盤へ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000031033.html
    
   ▼
     
 プロジェクトは、フェイズ1で、ある会社での社内データを用いて、ピアトラストがどのような人事データ、経営指標の変化につながっているのかを検証していきます。
   
 続くフェイズ2では、外部から協力企業を募り、いくつかの会社での実証実験をスタートさせていく予定です。
   
 せんだっては、Zoomで、プロジェクトのキックオフミーティングが開催されました。
 (下記がそのときの写真です)
  

   
 プロジェクトメンバーは、渡辺圭さん、千葉純平さん、壷内悠伊さん、甘エイさん、川原梨奈さん、そして僕の6名です。
 5名のプロの皆さんとのコラボレーションは、最初から、なかなか知的にスリリングなもので、かつ、皆さんの熱心さとスマートさに、わたしは感銘を受けました。このコラボレーション、心より楽しみにしております。
    
 しばらくは、この6名で議論を進めながら、確かな成果創出につなげていきたいと考えております。
   
   ▼
    
 コロナ禍にまだまだ翻弄される、忙しい毎日が続きますが、またまた新たな「旅」のはじまりです。
    
 よき人材開発、よき組織開発、よきリーダーシップ開発をめざして、今だ見ぬ「仕組み」の創出に全力で向かう所存です。
 わたしとしては、個人的には、これまで行ってきたフィードバック研究、リフレクション研究に、セルフアウェアネスの概念を接合させ、個人の「強み」を伸ばした人材開発、リーダーシップ開発のあり方を探求していきたいと考えています。
    
 今度の旅も、きっと楽しい!
 そして人生はつづく
   
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新刊「サーベイフィードバック入門ーデータと対話で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」が好評発売中です。AMAZON人事・マネジメントカテゴリー1位を記録しました。組織調査を用いながら、いかに組織を改善・変革していくのかを論じた本です。従業員調査、HRテック、エンゲージメント調査、教学IRなど、組織調査にかかわる多くの人事担当者、現場の管理職の皆様にお読みいただきたい一冊です!
  

  
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「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
   

  
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