NAKAHARA-LAB.net

2019.4.18 06:54/ Jun

課題解決は「最初が肝心」、しょっぱなから「コケ」れば「みんなで犬の道をデスマーチ」!?

 最近、学生が「グループになって課題解決」をしている様子ばかり見ているせいか、僕自身が「課題解決のコツ」を一日中、考えている状態になっているような気がします(それはそれで、ヤマイかも)。
  
 というわけで、昨日に引き続き、今日も課題解決のお話をさせていただきます。今日は、ひとつの寓話からお話を始めましょう。その寓話とは「真っ暗闇の道で鍵を紛失してしまった男の話」です。
  
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あるところに「真っ暗闇の道」で、鍵を落としてしまった男性がいました。
チャリーンと音がしたので、鍵が道に落ちたことは確実でしたが、ちょっと見ただけでは鍵のありかはわかりません。鍵を探すためには、地面に顔を近づけて、手で探さなければならないような状況でした。
  
道には「街灯」がひとつだけありました。
「街灯」の周囲は、そこだけ明るく照らされていました。
  
それから2時間たち、そこに、ひとりの女性が通りすぎました。
女性は、男性が「街灯のところで鍵を探している」のを見つけました。
  
女性は、不思議に思い、男に声をかけました。
  
女性「何か、なくしてしまったんですか?」
男性「ええ、そうなんです。鍵を落としてしまったんです」
女性「街灯のあたりで、鍵をおとしてしまったんですか?」
  
そういうと、男性は、こう答えました。
 
「いいえ。鍵を落としたのは、道の他のあたりだと思うのです。でも、道は暗くてわかりません。街灯のあるここだけ明るくて見えるので、ここで鍵を探しているのです。でも、2時間たっても、鍵は見当たりません。おかげで、家に帰ることができないのです」

  
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 この寓話、僕自身はどこで知ったのか、すっかり失念してしまったのですが、とても心に残っているものです。「課題解決を行うときの心得」として、折にふれて、思い出すことがあります。
 せんだって、こちらの寓話を、学部2年生の課題解決の授業で(授業外講座のときのちょっとしたレクチャーで)、すこしだけお話をさせていただきました。
   
 ショートレクチャーで言いたかったことは5つ。
  
1.課題解決は「最初が肝心」
  
2.最初は「とにもかくにも、情報収集を幅広く行うこと」
  
3.自分たちが「何を課題として解くか」を決めるために、えり好みせずに、情報収集し、ありえる選択肢を「すべて並べること」
  
4.「選択肢をすべて並べたうえ」で、十分対話を行い、最終的には「何を課題とするか」を「決めること」
  
5.「決める=ひとつのものを選ぶ」ときには、「選んだもの」にまつわる「なぜ選んだのか?」の「積極的な理由」と、「選ばなかったもの」にまつわる「なぜ選ばなかった?」のかに関する「消極的な理由」を明確にしておくこと
  
 でしたが、伝わったでしょうかね・・・。
  
 ま、おそらく、単純にレクチャーを行っただけでは、このうち「5%」くらいしか伝わっていない自信がございますが(笑)、言いたいことはそういうことだったの。まー、詳細は、今後の授業でやるから、今から全部わかる必要はございません。
    
 ただ、新年度、グループワークがはじまったばかりのこの段階で、強調しておきたいことは、「とにもかくにも幅広く情報収集をすること」であり「選択肢をすべて並べること」です。
 この「すべて並べる」というところがポイントです。課題解決は、それくらい、最初に「幅広く情報収集」しておかないと、「解くべき課題」を見誤ってしまうのです。
  
 先ほどの寓話に紐付けてお話しするとすると、こういうことですね。
  
 1.何が課題かわからないときには(先ほどの寓話での「暗闇」)
   
 2.とっつきやすいところだけにとびつき、そこだけ調べるのではなく(街灯の明るいところだけを調べる)
   
 3.全体像を把握するために、幅広く情報収集すること(暗い部分も含めて道全体を探すこと)
  
 そうじゃないと、鍵、見つからないよ。
 だって、明るいところで落としたんじゃないかもしれないじゃん。
 おうち、帰れなくなっちゃうよ(課題解決できなくなるよ)、笑。
  
 あるいは、犬の道を、みんなでデスマーチすることになっちゃうよ(昨日のブログです・・・)。
(犬の道とは、課題解決をおこなっても、さして誰からも感謝されないようなイシュー度の低い課題解決の比喩:昨日のブログをご覧ください)
  
「いいねいいね病」に罹患し、心優しく「割り算」かまして、「犬の道ドボン」にご用心!:課題解決で陥りやすい3つの思考の罠
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10165
   
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 最近、学生の「グループワークでの課題解決」を見ていることが多いのですが、実は、こうした状況は、学生だけに起こるわけではございません。程度の差こそはあれ、ビジネスパーソンの行う課題解決も、同じようなことがおこりえます。
  
 わたしは仕事柄、たくさんのビジネスパーソンの課題解決のプロセスを拝見していますが、30歳や40歳になっても、「街灯のあるところだけ鍵を調べているケース」や「解くべき課題を見誤って犬の道」にはまってしまう「悲報」はあとを立たないのです。
  
 悲報の原因は、昨日のブログのように「言いたいことが言い合えていない」もございますが、「幅広く情報収集して、情報をすべて並べることができていないせい」もございます。
 
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 これからの時代は、やはり高度な課題解決力が求められると思います。
 課題解決は最初が肝心。
 何を解くべき課題とするのかを決めるために「幅広く情報収集」を行うこと、だと僕は思います。
  
 そろそろ、鍵、見つかった?
 あっちの方も、こっちの方も、探すといいよ。
  
 そして人生はつづく
   
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