The Long & Winding Road - 2003/03

sunset at promised place


2003/03/31 身の毛もヨダツ

 身の毛もヨダツようなネンドマツがようやく終わろうとしている。

 先日の日記では、「あー、はじめて原稿落としちゃったよ!」と嘆いていたが、それもつかの間。まだマシよ・・・。参加を楽しみにしていた山内研究室の合宿まで、ナント、スケジュール管理ミスで、参加できなくなってしまう。一日ズレていたんだな・・・合宿の開催日が。

 「付箋紙」と「アウトルック」で完全スケジュール管理を目指していたのに、このネンドマツで2個もスケジューリング・ミスをしてしまうとは・・・トホホ。

 山内さん、山内研究室の方々には、この場を借りてお詫びしたい。申し訳ございませんでした。

 それにしても、このネンドマツはキツカッタ。ひとえに僕の作業量の見積もりミスと、自分のキャパシティの過信から、これらの事態をまねいた。

 来年は、ここまで追い込まれないように、何とか対策をうちたい。さよなら、平成14年度!


2003/03/25 選択、配分、リスク...想像力

 ある一点に局所的に情報、その他の資源、タスクが集まるような組織、あるいは内部のモラルハザードのためにある一点に局所的にそれらが集まらざるを得ないような組織は、非常に大きなリスクを負っている。

 「ある一点」がブレークダウンを起こした際には、しかし、様々なモノが集中しているが故に、ブレークダウンをおこす確率が非常に大きい「一点」であるのだが、その際には、全体の秩序が雪崩のように崩壊に向かう。

 あるいは完全に崩壊には向かわなかったとしても、その組織のパフォーマンスの少なくない一部分は「ある一点」のパフォーマンスに由来するものであるが故に、組織全体のパフォーマンスを著しく低下させることになる。

 まずは冷たいアタマで「選択」と「配分」をおこなうことである。

 どこに情報が流れているか、どこに資源を集中させるべきか、今与えるべきタスクとは何なのか。集中させすぎてはいないか、不足を起こしているのではないか。それらの思考のもとに、不確実きわまる条件下で、明確な意志決定をおこない、リスクを低減させるべきである。

 こうした作業は骨が折れる。If-thenルールが幾重にも重なった問題解決をおこなうプロセスそのものであるからである。いや、If-thenのような命題的表現がおこなわれている場合は、まだましだ。想像力をフルに働かせる必要がある。

 結局、最後はそこなのだ。そこなんだろうなぁ・・・とため息がでる。


2003/03/23 セサミストリート研究会

 昨日、関西大学で開催されたセサミストリート研究会に参加した。この研究会を開いてくれた稲垣君(現所属は関西大学大学院、数日後には東北学院大学)に感謝します。研究会には、甲南女子大学の上田先生、吉田さん、国立民族博物館の佐藤さん、関西大学の中橋君、松本君、稲垣君、寺嶋くん、富士通ラーニングメディアの三輪くん、NHKの服部さん、カミサンと僕が参加した。

 参考図書は、以下のとおり

セサミストリート研究会で読んだ文献
Shalom M. F. & Rosemarie T. T. (2002) "G" is for growing : Thirty years of research on children and Sesame Street. LEA, MA

フォーマティブ・エバリュエーションの基礎文献
Flagg, B. N.(1990) Formative Evaluation for Educational Technology. LEA, MA

評価を考える際の基礎文献
Pellegrino, J. W. & Glaser, R.(eds)(2001) Knowing What Students Know: The Science and Design of Educational Assessment. National Academy press, Washington D.C.

 以下、セサミストリート研究会での僕のメモ

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■クーニーさんの話(上田先生のビデオ)
  →貧困のループを断ち切るため、リテラシーの育成を目的にする
    →でも、ヘッドスタートの幼児教育はうまくいかなかった、焼け石に水だった
    →一人の子どもにあめ玉を買うお金で、セサミがつくれる。
       →リテラシー育成のためのメディアとして、テレビジョンに注目
  
■クーニーさんの話(上田先生の解説)
  →子どもたちの立場にたった番組作り
    →派手な演出によるアテンション喚起
      →批判されるところもあったが・・・
      →だって、子どもは番組をエンターテインメントとしてか見ないんだもん!
        →エンターテインメントに負けると、子どもは誰も見ない
        →そういうことを現実的条件・制約として、子どもが見るための教育テレビをつくる必要がある


  
甲南女子大学の上田先生

■エドワードパーマーさんの話(上田先生のビデオ)
  →スクリヴンがFormative evaluationをカリキュラム開発で提唱した
    →その後、エドワードパーマーがFEをセサミストリートに応用
      →ディストラクターメソッド(Distractor Method)を考案
      →テレビの横45度にディストラクターをおいて、タイムサンプリングを行い、
      そのときに子どもが何を見ているかをディストラクターグラフにつけていく


 
当時のCTWの雰囲気を上田先生が再現
こんな模造紙にFEの結果が書かれ、部屋中に張ってあったという
そこで、みんなで立ち話をしていたとのこと。
  
これがディストラクターグラフ!
これはまさに研究者と番組制作者の境界をこえるためのオブジェクトとして
機能していたんだろうね

■セサミの開発方法(上田先生解説)
  →1時間のショーを、いくつかのセグメントから構成する
  →ふだんはセグメントを開発する
    →1時間のショーでは、「変化すること」「注意を喚起すること」が重視されている
    →セグメントの組み合わせの際に、FEを使う
  →FEの結果は、スタジオのカベにはって、それを見てみんなで立ち話をするスタイル
    →こうしたことが可能なのは、インハウスに研究者を雇っているからである

■稲垣さん担当1章「セサミストリート研究の黎明」で、中原が印象深かったところ
  →CTW(Children's Television Workshop)→Sesami workshopに2000年に転換
    →2年間に800万ドルの補助金(130時間のプログラム)
      →Low income, Scool rediness skillの獲得, 3歳から5歳を対象にして
  
  →CTWのリサーチャの3つの役割
    1. カリキュラムと番組をより効果的に結びつける
    2. 形成的評価(Formative Evaluation)を実施する
      →≠シェフがお客さんにお料理をだすまえに味見をするみたいなもの
      →子どもをフィルターとして、番組を「Form(構成)」するための評価
    3. 総括的評価(Sunmative Evaluation)を行う外部組織(ETS)と連携する
      →外部へのアカウンタビリティとして
      →≠お客さんが食べておいしいかどうかを判断するみたいなもの
  
  →ジョン=クーニーの感動的なコトバ
    「研究者と番組制作者のコラボレーションは続ける価値のある結婚だ。コドモたちのために」
  
  →Formative evaluationには、今も非常にニーズがある!
    →数年前マルチメディアがはやったとき、FEを学べる大学は3つしかなかった
      →それを身につけた学生はものすごく就職がよかった!


  
微妙な視線の稲垣君

■中原美和さん担当2章「セサミストリートのカリキュラム」で、中原が印象深かったところ
  →教育目標リストをつくるために、3日間×5のセミナーを開催した
     →アーティスト、教育学者、番組制作者などが参加した
  →そんでもって、教育目標を行動目標にしていった
     「Given X, Child can Y」のフォーミュラにすべてあてはめて考えた
      1. 多くの人たちが番組にかかわっているため、曖昧な目標のままだと意志疎通ができなかったから
      2. 具体的な行動目標にしないと、評価ができない
  →その際には、目標の中で重視するものを決める(フォーカスしたテーマと評価を行う)
   「100をねらって25を達成するより、10にフォーカスして25の成功を導け」

■中原担当3章「Formative evaluationの方法論的問題」
  →「評価」を考えるときに重要であると思われること
  
     1. 誰が (研究者が?研究者グループが?実践者が?)
     2. 何の目的で (プログラムを改善するため? ツールのよさを主張するため? アカウンタビリティのため?)
     3. 何を対象にして (子ども? 教師?)
     4. どのような方法で (質問紙調査? 質的な方法?)
     5. どのような期間とコストをかけて (一ヶ月で?一年で?予算なしで?)
     6. 誰の、どんな活動に貢献するために (ディレクターが番組をつくるために?)
     7. どのような表現や形式で (模造紙で? 論文で? プレジデントペーパーで?)
     8. どのようなタイミングで結果を提示するか (全部終わった後で? つくっている最中に?)
  
  →このうち、5から8は「研究者」に無視されがち、特に7は全く無視
  →セサミストリートのFEは、5から8に対するひとつの解を与えてくれているのではないか?

■川端さん担当4章「FEの役割」

■寺島さん担当5章「セサミストリートの教育・社会に関するインパクト」
  →6章から8章までの概説する章

■服部さん担当6章「The early window project : セサミストリートの総括的評価」

■三輪さん担当8章「セサミストリートの視聴していた子どもが高校生になったときの調査」
  →アカデミック・アチーブメント
    ・セサミを見ていた子どもは、すべての科目で平均スコアがよかった
    ・収入の差による違いは今回は検出できず
  →読書時間
    ・セサミを見ていた子どもは、読書をよくする
  →創造性
    ・セサミを視聴すると創造性は減退しない
  →攻撃性
    ・セサミを見ていた子どもは攻撃性が低い

■中橋さん担当9章「セサミストリートの世界進出」
  →上田先生によると、日本版CTWの立ち上げは当時の人々にとって悲願であったという
     →それをはばむ障害とは何であったのか?
     →「Successful Formative Evaluation」を可能にする組織論の在り方とは何か?

■松本・内垣戸さん担当10章「保育現場におけるセサミ関連教材の活用」
   →教材開発とアウトリーチ活動
     →セサミのブランドイメージ・セサミを基底する思想を、どのように伝えたのか?

■ETSの総括的評価でわかったこと(上田先生解説)
  【前提】
    ・ETSのBall, SとBogats, G.A(ボールとボガッツ)による実施
    ・943名のサンプル
  
  【わかったこと】
    1. 貧困改訂の子どもで母親と一緒に視聴し、番組内容について話し合っていた子どもが最高に学習した
    2. 子どもの関心を最大にひいたのは、動くシンボル、特に文字に関するもの
    3. ほとんどの番組をみなかった子ども(Q1)、一週間に2回から3回の視聴の子ども(Q2)
     一週間に4回から5回視聴した子ども(Q3)、一週間に5回以上した視聴した子ども(Q4)
     とすると、Q1は9%、Q2は15%、Q3は19%、Q4は24%の学習ののび
    4. 一番顕著なのびを示したのは、43名のスペイン語をはなす家庭の子どもで視聴頻度の高い子ども

■CTWが来日するとき、チームとして来日する(上田先生の解説)
  →リサーチ、ビジネス、プロデューサが3名くらいで来日する
   ・全員他の領域で何がおこっているかは知っている
    「僕はビジネスのことは知らない・・・」とは決して言わない
  
   ・だけれども、自分の専門のことを中心に語る
     →リサーチャーが積極的にはお金のことを語らない、知ってはいるけど、あえて外向きにはサイコロジーを語る
     →ビジネスマンはコストを積極的に語る、他を知ってはいるけど、あえて外向きにはお金を語る
     →情報は共有する、しかし、それぞれの専門性をうまく活かしながら、尊重する

※FlaggさんはFormative Evaluationの会社をつくったらしい

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 来年度から1年間<評価にこだわる研究会>を立ち上げるので、今回の勉強会はとってもためになった。

 ハイパーメディアでも、マルチメディアでも、フルデジタルカリキュラムでも、CSCLでも、eラーニングでも、何でも人の好きによべばいいと思うけど、今、「テクノロジーと学習」の研究、実践の現場では、今多くの人々によって「評価」が注目され、それをアタリマエにやっていける様々な条件の整備が求められている、と僕は思う。

 セサミストリートが生み出される頃、それにかかわっていた人々のスピリットと知見を、今、自分は、自身の研究にどのように活かせるか。

 動きの中で考えろ!>自分


2003/03/21 ファシリテーション

 本日は、Cool2003を更新したので、それを再掲載。

 昨今、オンラインコミュニティの維持、ワークショップにおける活動の維持を担う人に注目があつまっていますね。いわゆる、モデレーションとかコーディネーションとかいわれる活動だ。要するに、人々の活動にプロンプトをあたえ、整理し、まとめていく活動をさします。

 ちょっと前からでしょうか、ビジネスレイヤーから、「ファシリテーション」という概念でこれらに関する本が出版されていて、参考になるので、ご紹介。「会議の進行」とか、「論理的思考」とか、いかにもビジネスレイヤーからでてきました!という感じのトーンですが、体系的にまとめてあるし、一部ワークショップとかについても触れられている。参考になります。

堀公俊(2003) 問題解決ファシリテーター. 東洋経済新報社, 東京

フラン リース (著)・黒田 由貴子・P.Y.インターナショナル (翻訳)(2003) ファシリテーター型リーダーの時代. プレジデント社, 東京


2003/03/21 意味

 Learning & Management研究会に参加するため、電車の中で半分車酔いしながらレジュメを作成する。今回僕が担当したのは、「無印良品」で有名な蒲ヌ品計画の事例だった。

 良品計画には、それほど突出したコア技術や特許などはない。無印良品の「シンプル」かつ「ナチュラル」でいて「知的」という商品イメージ、コンセプト、企業アイデンティティこそが彼らにとっての資産である。

 もちろん、そうした資産は一朝一夕で生まれたものではない。そうした資産、いわゆる無形な「意味」を顧客とのインタラクションによって構成できることこそが、彼らの強みである。

 今日僕がレジュメに書いた内容はこんな話であった。月並みな言葉を用いていえば、原初的なCRMの理想をあらわした事例であるともいえるかもしれない。

 良品計画にできて、他の企業にはマネのできないことというのは、人を魅了する「意味」を一貫して、他者とのインタラクションを通じてつくりだすことである。

 インタラクションにまかせるだけでそれはできない。他者のコトバや意向にマルナゲドンでモノができたら、苦労する人はいない。
 それをおこなうためには、商品開発から販売にいたる全行程に一貫したまなざしをおくる必要がある。同時に、他者のアイデアをそれに組み入れながら、こだわりのディテール(分節化された意味)をつくりこむ必要がある。

 めざすは、ディテールのよくつくりこまれた一貫した意味の体系である。意味の体系が一貫していなければ、人を魅了することはできない。

 意味をつくりだすというのは、それほどシビアなことである。そしてそのシビアさゆえに、それがいったん確立され、流通しはじめると、それほど強い武器になるものはない。

追伸.
 研究会といえば、そうそう、LOT2003の申込者がもう締め切り間近である。もし、参加を希望なさる方がいらっしゃったら、お早めに。


2003/03/18 失礼なヤツ

 失礼なヤツもいるものだ!

 ちょっと前のことになるけど、僕が国際線で白ワインを飲んでいたら、隣の人が話しかけてきたがあった。

 「その白ワインおいしいですか?」

 僕は赤ワインよりも白ワインの方が実は好きで、そのとき飲んでいたのはお気に入りのシャルドネ種だったから、こう答えた。

 「おいしいと思いますけど」

 そしたらさ、聞いてくれよ、かの人は僕にハナで笑ってこう言ったんだな。

 「うちの父は白ワイン好きなんですけど、なんかおしっこみたいで、私は嫌いなんですよ。白ワインを、おいしいと思う人って父以外でもいるんですねー」

 悪いの、「しょんべん」が好きで?

 前にも言ったけど、こういうワイン好きなヤツって、僕大嫌い。否、ワイン好きっていうんじゃないんだろうな、「ワイン知ったかぶり」っていうのかな。否、違うな、人としてマズイよ、この言いぐさは。

 オマエが何好きだろうが、余計なお世話なんだってーの
 黙って飲めよ、このタコ!

 あー気分悪い。


2003/03/17 近況

 14日

 京都までの新幹線中、原稿書き。終わらない、どうしても終わらない。お昼、滋賀大学の鈴木さん、兵庫教育大学の永田さんとランチ・ミーティング。その後、西森さん、笠井さんをまじえて、来年度のProject MATEの研究計画について全員でうち合わせ。夜は、鈴木さんのアレンジしてくださった京都料理のお店で、鈴木さんのD論提出のお祝いをかねて食事。

 15日

 京都大学にて開催された大学教育研究集会に参加。exCampus プロジェクトについて報告させていただいた。その後、けいはんなにある大川センターCAMPで開催されている日本教育工学会春の合宿(Feel the workshop)に参加。甲南女子大学の上田先生ほか、ワークショップのバックステージのスタッフの方々、ワークショップ参加者から多大なるインスピレーションとアイデア、そして少しの勇気をもらった。
 新たな研究のアイデアが久しぶりにほとばしった。参加して本当によかった。このワークショップに関わった方々、本当にありがとうございました。

 16日

 引き続きワークショップに参加。その後、東大の酒井君、並木さんらと帰京。帰ってきて久方ぶりにカミサンと食事。食事後入浴。しかし、湯船で死んだように眠る。もう少しで窒息寸前。目の下のクマを退治するため、化粧水をひたしたガーゼ?を目におくという民間療法?をカミサン提案。そのまま爆睡。少しマトモになったようだ。

 今週はスーツ着ることが多い。
 年度末繁忙期、いよいよプレ・フィナーレ!



2003/03/15 教材

 教材って何ですか?
 あなたが考える教材の具体的な例をひとつあげてください?

 あなたが教育関係の方なら、これら問いをまわりの5人になげかけてみてください。5人が5人違うことはないかもしれないけれど、教材に関してみんなが持っているイメージがどれだけ違っているかがわかると思います。

 ある人は、教科書を教材というかもしれない。資料集をあげる人もいるでしょう。ビデオとかテレビ番組をあげる人もいるでしょうね。はてにはWebページ、Webページのリンク集、レポート課題なども教材とよばれることがあります。

 さらに次の問いを重ねると、事態はもっと複雑になるはずです。

 あなたが例にあげた教材は、どういう風に利用されますか?

 同じ教材を例にあげたとしても、人によって、思い浮かべる利用シーンは違うことが多いと思います。利用シーンが思い浮かばない人もいるかもしれない。

 教材とは何か?

 今、ここで再びこの問いに立ち返り、形而上学的に追求することは、本意ではないのでやめますが、ひとつだけ注意した方がいいことがあります。

 あなたが教材開発にたずさわるとき、たとえば、eラーニング教材をつくるとき、これらの基本的な問いに関してチームで理解を「ある程度」共有した方がいいと思います。「教材」を「コンテンツ」と言い換えても結構です。

 コンテンツとは何か?
 コンテンツは具体的にどう利用されるか?

 こういう基本的な問いをないがしろにすると、あとになって、「あれ、何がゴールなんだっけ?」「どういう学習が生まれたらOKなんだっけ」という風になってしまいがちです。

 教材って何ですか?


2003/03/13 目がけいれんする

 目がピクピクとけいれんする。
 生き物みたいだな。


2003/03/12 大人の学習を語る言葉

 夏のセミナーの件で、イーブリッジの井澤さんとお逢いした。社会人大学院、企業内教育など、社会人が学ぶための「機会」と「場所」に何が必要なのかについて意見を交換した。というよりも、またまた<新春大放談>してしまった。毎日のように「春」だな、僕は。

 井澤さんとお話ししていて、いろんなことを僕なりに考えた。

 くどいようだけど、大人だって、老人だって、うちのオカンだってオトンだって、学習者である。毎日毎日学んでいる。だけれども、人はいったん成人してしまうと、「学ぶ存在」としてではなく、「学び終わった存在」として取り扱われていたように思う。

 こんなことを言うと、またまた便所スリッパでどつかれそうだが、否、どつかれるんじゃなくて、目つぶしをくらいそうだけど、教育学は「学習者としての大人」にこれまであまり注目してこなかったように思う。否、注目した人はいたんだろうけど、これまで多くの研究者に語られるものではなかった。

 そしてその結果、こと「オトナの学習」に関する限り、今、どういう事態になっているか。

 高等教育なら高等教育、企業内教育なら企業内教育という風にセクションが区切られ、そこに関係する人々がそれぞれに、そこでの学習を語る言葉、語り口を発展させていった。その領域ごとにジャーゴンが発展した。

 その結果、同じコトを言っているのにもかかわらず、「こっちでは○○といいまっせ」「いやいや、こっちでは▽▽のことでっせ」という風に、なかなか相互に意味を交換できない事態が頻繁に起こるようになってきた。

 それぞれが棲み分けできた時代はそれでよかったのかもしれないが、知識社会という時代は、その問題をいやがおうでも顕在化させた。先日ミュンヘンでおとずれたシーメンス社のデータでは、同社の売り上げの75%は、同社が5年以内に生み出したイノベーションの結果であるという。

 様々な人々のチエを結集して、断続的なイノベーションをうみだすことが、今、求められており、そのための学習の場を情報通信技術をうまく取り入れ、つくりだすことが、みんなの関心となった社会では、領域は無化されようとしている。

 これまで高等教育や企業内教育という縦に分断されていた「大人の学習」に、テクノロジーという横糸が入ることで、その「失われた交差」に生まれる「何か」を語る言葉が必要になっている。

 これまで語られることの少なかった、大人の学習を語る言葉が欲しい。それがないならば、みんなでチエをしぼって考えてつくるしかない。最初から完全なモノなんてできないだろうけど、そこに生まれる「何か」を語りあうことからはじめられればと思う。

 井澤さんとはこんな話をしていた。


2003/03/11 不良債権

 これまで僕は締め切りを守ることを、自分のポリシーとしてきた。「付箋紙」と「Outlook」を駆使してスケジュール管理を徹底してきたつもりだ。たぶん、今まで、原稿でも、開発でも、ほとんど締め切りを破ったことはないはず。ご愛敬程度のものならばあるかもしれないけど、一週間前、少なくとも数日前にはすべて仕事をこなしてきたつもりだ。

 ところが・・・でも、とうとうやぶってしまった・・・。やっちゃった・・・わたくしとしたことが・・・。

 でも、怖いのは、これからなんだ。3月、2月からどんどんと増えてきた仕事が日々不良債権化していて、どんどんと雪だるま式にたまっている。さぼっているわけではないんだけど、次から次から、何かがでてきて、いっこうに減らない。

 昨日帰国したばかりだというのに、不良債権が膨らむ夢をみちゃったので、怖くなって眠れなかった。今、朝の5時55分、でも仕事が終わらない・・・トホホ。

 今年度はもう自転車操業。つまりは、走りきるしかない。来年度は「仕事のやりかた」の構造改革をはからなければならない、と思う。


2003/03/10 近況

 今日、ある人に言われて驚きました。

 「最近、日記書いてないじゃん!」

 おーのー。うっかり八兵衛的な忘却です。あまりにも忙しくてすっかり日記のことを忘れていました。考えてみたら、2月24日から書いてなかったんだよね。あー。

 もちろん、その間、遊んでいたわけじゃなくて、ホントウに「ジェットコースター」にのっているように過ごしていました。若干、最近、自分の仕事量が僕のキャパを上回っていて、どうもまわっていない気もするし、それでみんなに迷惑をかけちゃったりしているところが多いな、と思うんだけど、頑張るしかないですね。

 この期間で、一番大きかった出来事は、やはり、3月2日から10日までドイツ・フィンランドにいっていたことでしょうか。

 はこだて未来大学の美馬さん、文部科学省生涯学習局の関根さん(関根さんは僕と同じ高校「旭川東高校」のご卒業でした・・・高校の話題で結構盛り上がった)にご一緒させていただき、両国の様々な研究機関・民間会社を回りました。

 今回の調査の目的は、ずばり「携帯情報端末の教育現場での利用」についてです。僕、学習ツールとしての携帯電話には注目していて、去年も、iTreeというソフトを開発したりしていましたので、これはものすごく勉強になった。

 ほとんどの訪問地で、自分の研究のプレゼンテーションを英語でやって、自分の英語力のなさは痛いほど身にしみたけど、でも、本当にスリリングでした。エキサイティングなディスカッションなんかもあって、そういう意味ではものすごく自分の経験値がたまったかも。

ドイツ・フィンランド調査
   
  

   
 まず訪問したのは、ヘルシンキ大学のICT教育センター(左)。NIMEっぽい組織で、大学の先生を対象にしたFDコースの提供とか、Virtual universityの運営なんかをしていた。ここでは、研究者数名とディスカッション&プレゼンテーション。その後、ヘルシンキ芸術工科大学のメディアラボへ。ここのクリスティーナさんにはとってもお世話になった。
  
ドイツ・フィンランド調査
   
  

   

ヘルシンキ芸術工科大学のメディアラボで、プレゼンテーション&ディスカッション。左は、Learning Environment 3というプロジェクト。CSILEのようなシステムをGPLライセンスでただで配布しています。右の写真は、中原、クリスティーナさん、美馬さん。

Future Learning Environment 3 (http://fle3.uiah.fi/)
Euro CSCL org (http://euro-cscl.org)

  
ドイツ・フィンランド調査
   
  

   

次の日は、朝6時において、タンペレ工科大学へ。モバイル端末を用いた様々な学習ツールについて話を聞いた。こちらからもプレゼン。

  
ドイツ・フィンランド調査
   
  

   

フィンランドをはなれ、ドイツへ。まず、バイエルン州の教育研究所(カリキュラム作成をするような教育研究機関)をおとずれ、ICT教育の現状について意見交換(左)。右の写真は、美馬さんと関根さん。

  
ドイツ・フィンランド調査
   
  

   

お次の訪問地は、ドイツがほこるメーカ。シーメンス社。ここで携帯情報端末の教育利用の可能性を2日にわたってプレゼン・ディスカッション。

  
ドイツ・フィンランド調査
   
  

   

議論している様子。やはり文化の差があるから、なかなか話がつたわらないこともあるけれど、図を書きながら両国の教育システムについて説明している様子。左は、この会議をコーディネートしてくれたミスターコルディッツにみせてもらった、シーメンス社内のKnowledge Managementシステム。まさにコミュニティ・オブ・プラクティス。全世界の従業員の間で情報がやりとりされていた。

  
ドイツ・フィンランド調査
   
  

   

 左の写真は、シーメンスのe-Learning担当部長。ものすごくかっこよく、知的な女性だった。右の写真は、この日のためにわざわざボンからきてくれたMiss Ciba。教育の情報化推進NPOの人。ドイツのICT教育の推進の仕組み、その取り組みを教えてくれた。

  

 というわけで、ものすごくフルーティフルな経験をさせてもらいました。この場を借りて、美馬さんと関根さんにはお礼申し上げます。ありがとうございました。

 最後に近況で嬉しいことひとつ。ようやく社会人大学院本がNHK出版「生活人新書」として出版されました。

山内祐平・中原淳(共編著)+社会人大学院研究会(著)(2003) 社会人大学院へ行こう. NHK出版, 東京

 僕は1章、2章、3章を書いています。社会人大学院の今を知りたい方、社会人大学院生がどのような学びをしているのかに興味のある方がいらっしゃったら、是非、ご一読いただければ幸いです。感想とか聞かせていただければ嬉しいですね。

 あと、そうだ、そうだ、これで最後。2月21日におこなわれたexCampus記者発表会の様子の写真を、田口さんにもらいました。田口さん、ありがとう。

exCampus記者発表会
   
  

   

左は、メディア教育開発センターの坂元所長。右の写真は、東京大学情報学環の原島学環長。お忙しい中、ご出席いただきありがとうございました。

  
exCampus記者発表会
   
  

   

左の写真は、山内さんが iii onlineの一年間の成果についてプレゼンしている様子。左は、中原。前日までの作業でしにかけ人形状態だが、なんだか知らないけれど、気持ちよくプレゼンしている。

  

 そして人生は続く。


 NAKAHARA,Jun
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